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コラム羅針盤

2013.11

会計基準の国際化から感じたこと

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来年4月1日から消費税が増税されることになりました。消費税の増税は実に17年ぶりとなりますが、その間、時を同じくして大きく変わってきたものがあります。それは企業が財務諸表を作成するために拠り所とする会計基準です。
 平成12年3月期から、有価証券報告書等が単体決算から連結決算中心になり、連結キャッシュフロー計算書の作成義務化、そして税効果会計が導入されました。翌年の平成13年3月期からは、金融商品会計や退職給付会計、平成18年3月期からは固定資産の減損会計といった基準が次々と導入されました。この一連の会計基準の導入はその影響の大きさから「会計ビッグバン」とも呼ばれ、企業は目まぐるしく変わる外部の経営環境のみならず、新しい会計基準にも対応しなければならなくなりました。

 
会計ビッグバンの背景
 
平成8年11月、橋本龍太郎首相(当時)は金融制度の抜本的な改革(日本版金融ビッグバン)を行うことを表明しました。日本版金融ビッグバンはバブル経済崩壊後の停滞する東京金融市場を、
①フリー(市場原理に基づく市場)
②フェア(透明で公平な市場)
③グローバル(国際的な市場)
の三原則のもと、大幅な規制緩和や撤廃により再び活性化しようとするものでした。バブル経済崩壊以降、日本は不良債権の増大という問題を抱え国際的な競争力や信用力を失っていましたが、その信用力喪失の一因となっていたのが日本の会計基準でした。
 当時、日本の会計基準は金融商品の計上に際し取得原価主義をとっており、バブル時期に取得した金融資産は高い取得原価で計上されたままでした。かさむ不良債権やその全容を不透明にしている取得原価主義の会計基準に対する海外からの不信感は、「ジャパン・プレミアム」という海外の銀行間市場で課せられた特別な上乗せ金利として表れていました。そのような状況の中、金融ビッグバンで日本の金融市場をフリー、フェア、グローバルな市場として復活させるためにも、日本の会計基準を国際基準に近づけることが急務とされたのです。
 
 
会計基準導入の影響

 新しく導入された会計基準の中でも、特に大きな影響を与えたと言われるのが金融商品会計です。時価主義に基づく金融商品会計の導入は、それまでの取得原価主義と大きく異なるため、企業は大幅な見直しを迫られました。では、実際にどのような影響があったかを少し見てみたいと思います。
 金融商品会計では、企業が保有する有価証券は保有目的に応じて時価評価することが求められます。主な処理として、
 
① 売買目的有価証券
時価で貸借対照表に計上。
期中の評価差額は損益計算書に反映させる。
② その他有価証券
時価で貸借対照表に計上。
期中の評価差額は純資産の部に直接反映させる。
(全部純資産直入法の場合)
 
といった時価評価の処理基準が定められ、これにより企業が保有する有価証券の含み損益が表面化することになったのです。
 財務省が公表した「会計基準等の変更に伴う法人企業統計記入内容変更状況調査(平成13年度)について」によると、この金融商品会計の導入により平成13年3月期には対象企業3万5663 社全体として、評価損が約△6・4兆円計上されました。これは同期の対象企業全体の税引前利益約7兆円の約90% にあたり、言い換えると本会計基準の導入により企業の税引前利益がほぼ半減したことになります。しかし一方では、純資産の部に+5・7兆円の評価差額が計上され、本会計基準導入により純資産の部に与えた影響としては約△7千億円程度であったと推計することができます。
 また、有価証券の時価評価は金額的な影響だけに留まらず、持合い株式の解消にも一役買っています。株式の持合いは安定的な株主構造等に寄与する一方で日本企業の閉鎖性の象徴とされていました。金融商品会計の導入により持合い株式にも時価評価が適用されるようになると、持合い株式の時価変動が自社の経営に影響を与えることになります。非事業用資産である株式は、評価益のある場合は純資産を増やしますが資本利益率を下げる要因となります。逆に評価損がある場合には、資本は減るものの評価が下がり過ぎると減損損失を計上しなければならず、資本効率が重要視される国際的な流れの中で、不必要な株式保有は経営上のリスク要因とみなされるようになりました。特に自己資本規制のある金融機関での株式保有減少の流れは顕著で、平成14年には銀行株式保有制限法が施行されるなど、都銀・地銀等による上場企業株式の保有比率は15・1%(平成8年度)から3・8%(平成24年度)と減少してきています(「平成24年度株式分布状況調査の調査結果について」東京証券取引所)。
 
国際化の中の基準
 
 このように金融商品会計は企業の財務利益や株主構造等に大きな影響を与えましたが、これら会計ビッグバンと呼ばれる一連の新会計基準の特筆すべき点は、日本の企業経営に投資家・株主重視という視点をもたらしたことだと思います。時としてそれは「株主至上主義」や「利益追求主義」として解釈され社会に議論を投げかけますが、何が正しいのかという答えはまだ出ていません。
 かつて日本は護送船団方式と呼ばれる金融行政のもとで高度経済成長を成し遂げ、独自の会計文化を作り上げてきました。銀行型金融システムや株式の持合いといった風土も、確かに海外からみれば閉鎖的であったかもしれません。しかし、メインバンクの協力や安定株主の存在は、短期的な利益に踊らされない長期的な企業経営を可能にし、だからこそ日本の高度経済成長があったとも考えられます。
 会計基準の国際的な標準化の流れは今後も続き、日本の社会も益々変化していくと考えられます。ただし、社会がどのように変わるとしても、そこで暮らす人々が社会の礎であることは変わりません。もう古き良き時代に戻ることはできませんが、ひとりひとり何が大切かを見極め、自分自身の「基準」を持って行動すれば、変わりゆく明日は新しき良き時代になるのではないでしょうか。
 
 
【クレジットアナリスト 中村 明博】




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