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コラム羅針盤

2016.02

道徳なき経済は 犯罪である

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 私たち企業調査を行う者がもっとも拠り所とするもの。それは有価証券報告書や決算短信といった企業が開示する書類です。有価証券報告書は法律で作成が義務付けられている書類ですが、そこに記載されている情報は財務情報に留まらず、企業の沿革や歴史、役職員の情報、企業が認識しているリスク等まで多岐に渡ります。企業調査では、その有価証券報告書等を隅から隅まで読み、企業の過去から現在に至る過程を知り、知恵を絞りながら企業の将来に思いをはせます。その他にも、実際に工場等の現場見学や対話をさせていただき、数字や活字だけでは知ることのできない情報を補完することも重要です。しかし、その企業が持つ理念、培ってきた歴史や企業風土、その人材が生み出した製品やサービスが社会に必要とされた結果の売上、利益や資産といったものが全て集約されて有価証券報告書に表れると考えると、やはり有価証券報告書は調査の基本となる重要な書類なのです。

 ところが、そんな重要な位置付けの有価証券報告書の信頼性を損なうような虚偽記載の事例は過去から後を絶ちません。金融庁の「課徴金納付命令等一覧」を見てみると、有価証券報告書等の虚偽記載を理由とする課徴金納付命令の件数は、平成23年度9件、平成24年度8件、平成25年度10件、平成26年度8件、と一定数あることがわかります。この事実は、一体何を物語っているのでしょうか?
 
 
内部統制の限界
 
 日本では2006年の新会社法と2007年の金融商品取引法の施行により内部統制が法制度化されました。内部統制とは企業の経営者が構築しなければならない業務プロセスで、その目的は以下の達成であるとされています。
 

―――――――――――――――――

 ①業務の有効性及び効率性

 ②財務報告の信頼性 

 ③法令等の遵守 

 ④資産の保全

―――――――――――――――――

 
 その業務プロセスの例を挙げれば、現金の出納と伝票処理は別の人が行い相互牽制を効かせる、定期的に担当者をローテーションさせ業務の属人化を防ぐ、といったことが挙げられます。企業にはこれらの業務プロセスを部署や業務に応じて適宜構築することで、内部統制の4つの目的が達成できているとの合理的確証を得ることが求められています。もし、内部統制を完璧に機能させることができたら、世の中からは虚偽記載も業務上横領等の犯罪行為もなくなるかもしれませんが、昨今の事例を見るまでもなく内部統制に限界があるのは明らかです。例えば、内部統制の整備義務を負う経営者が自ら内部統制をないがしろにしている場合、複数の人間で共謀した場合等は、内部統制の構築そのものが困難で、構築していても有効に機能させることは不可能です。また、企業の業界、業務内容や方法、置かれている経営状況等は千差万別で、一概にこの業務プロセスを適用すればいい、という定石があるわけでもありません。幾千通りもあるだろう部署や組織や業務の全てに措置を講じるのも現実的ではありません。
 
 
企業風土の重要性
 
 内部統制とは業務プロセスであると言いましたが、その基本的要素の一つとして、「統制環境」があります。統制環境とは「組織の気風を決定し、統制に対する組織内のすべての者の意識に影響を与える」ものとされ「誠実性及び倫理観」や「経営者の意向及び姿勢」といったものが例示されています。この統制環境は内部統制の根幹となるもので、言い換えれば、誠実性や倫理観がなければ内部統制は機能しないということです。いかに仕組みを構築するかという視点で語られがちな内部統制ですが、実は一番重要になってくるのは、企業やそこで働く人々が持つ誠実性や倫理観で、つまりはその企業が育んでいる企業風土なのだと言えます。損失を隠すために行う不正会計も、上司からの過度なプレッシャーに晒されて行う不正取引も、どんな立派な内部統制の仕組みをつくったところで誠実性や倫理観が欠落した企業風土であるならば、また同じことが繰り返されるでしょう。
 
 
本当の内部統制の強化
 
 企業が年輪のように築いてきた企業風土は、同時に、今いる社員一人一人が形作っているものでもあります。経営者が率先して誠実性や倫理観を示すのは当然ですが、その経営者ですら人であることを考えると、それを語るには企業や組織単位ではなく、もっと広い視点で捉える必要がありそうです。個人個人の誠実性や倫理観を育むのは、家庭であり、学校であり、職場であり、社会全体であります。誠実性や倫理観のあるなしは外部からは容易に知ることはできませんし、勿論、有価証券報告書でも知ることはできません。あまり思春期的になるのは本旨ではありませんが、思いやりや優しさ、他人への感謝や敬意、誰のために、何のために、どのようにすべきか。目先のことや自分のことだけではなく、心にゆとりを持って一人一人がそれらを育むことができる社会であれば、自然と企業の内部統制の強化に繋がるはずです。企業活動なくして社会は成り立ちませんが、“道徳なき経済は犯罪であり、経済なき道徳は寝言である”という二宮金次郎の言葉を忘れずにいたいものです。
 
【クレジットアナリスト 中村 明博】




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