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 1903年12月にライト兄弟が有人動力飛行に成功してから112年。その間、大空にかける人類の夢は空を飛び越え宇宙にまで到達しました。空を飛ぶことは当たり前になり、航空機はいかに早く安全で効率的に飛ぶか、乗客がより快適に移動できるか等、実用面での進歩を追求してきました。そして近年、航空機の進歩は新たな展開を迎えようとしています。それも地上の遥か上空ではなく、私たちのわりと身近な空の上で。
 
 
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無人航空機「ドローン」
 
 近頃衰えてきた私の記憶をたどると、今では「ドローン」と呼ばれる無人航空機が注目を集めるようになったのは、2013年12月にAmazonが「無人の配達用航空機を使って注文から30分以内に商品を届ける」という計画を発表した頃だったと思います。その当時にドローンという名称が使われたかは記憶していませんが、無人航空機で配達するというSF 的な発想にその実現を訝しんだ意見もかなり多くありました。しかし、先ごろ、米国特許商標庁でAmazonの特許出願書類が公開され、その内容が明らかになりました。特許が認められたとしても今すぐに無人配達サービスが始まるわけではありませんが、配達に出たドローン同志で配達環境や交通情報などの情報を交換し最適な配達ルートを選ぶ、配達場所をGPS で特定して外出先でも商品を受け取ることができる等々、具体的な方法がわかり始めると空飛ぶドローンが荷物を配達している姿がより鮮明に想像できるようになるから不思議なものです。
 これ以外にもドローンを使った輸送プロジェクトでは、米国Matternet 社のブータンやパプアニューギニアといった発展途上国においてWHOや国境なき医師団などと共同で遠隔地に医薬品を輸送するプロジェクト、スイスポスト(国営の郵便事業会社)の5年後の実運用を目指して始めた郵便配達プロジェクト等、様々な試みが世界各地で行われ始めています。事業活動としてのドローンの活躍も楽しみですが、遠隔地や過疎地に物資や郵便物を届けるといった人の生活に係る社会インフラとしての役割にも大いに期待したいところです。
 
 
活躍分野と経済効果予測

 実は日本ではかなり昔から農業分野でドローンの活躍は始まっていました。1989年12月にヤマハ発動機が発売した産業用無人ヘリコプターは主に農薬散布用として利用され、従来の動力防除機で1haあたり160分かかっていた農薬散布時間がわずか10分で済むなど農作業の効率化に大きく寄与してきました。そして今や食卓に上がるお茶碗の3 杯に1杯が無人ヘリにより防除されていると言われるまでに普及しています(2013年同社推定)。今後生まれる商用ドローン需要のうち約80%が農業分野であるという予測もあり、日本で培われたドローン技術が世界の農業を変える可能性も十分あるのではないでしょうか。
 また、撮影の分野においても、噴気が立ち上る箱根山・大涌谷ではカメラを搭載したドローンが立ち入り禁止区域を撮影し、より詳しい災害現場の状況確認や分析が可能になりました。その他にも測量機器を積んで地形調査を行ったり、はたまたパフォーマーを低中空から撮影して躍動的な映像を映画やミュージックビデオに登場させたりと、ドローンの活躍の場は着実に広がっています。
 一方でその経済効果について目を向けてみると、米国AUVSI(国際無人乗り物システム協会※筆者訳)が2013年に発表したレポートの中で、無人航空機の商用利用の進展により米国では2015年から2025年までの10年間で総額820億ドル以上(約10兆円)の経済効果が生まれ、10万人以上の雇用創出が見込まれると予測しています。予測には様々な前提条件があり可能性の範疇を出ませんが、いずれにせよ、経済効果の予測規模からドローンがかなり期待されている分野であることがうかがえます。
 
 
課題を越えて
 
  さて、経済効果も大きく期待されるドローンですが、その実現に向けてクリアしなければいけない課題もまた山積しています。
 今年4月に首相官邸の屋上にドローンが着陸しているのが発見され、ドローンがテロや破壊行為に利用される危険性があらわになりました。その他にも、空中からの容易な撮影はプライバシーや肖像権の問題を喚起し、落下した場合の歩行者被害や器物損壊など想定されうる課題は多岐にわたります。現在、日本では「ドローン」規制法案の成立が目指されていますが、本格的なルール作りはまだまだこれからといった状況です。米国でも5月に連邦航空局が今後企業と提携してドローン規制の課題洗い出しを行うと発表しており、世界的にもドローンに関するルール作りは始まったばかりです。航空機だけに課題を軽々と飛び越えて、とは行きそうもありませんが、安全性等に十分配慮しつつも新しい産業の息吹を妨げないルール作りが望まれます。飛び立てドローン、人々の期待を乗せて!
 
※文中では無人航空機を「ドローン」と総称しています。
 
 
【クレジットアナリスト 中村 明博】

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