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▲平成26 年衆議院議員総選挙における年代別投票率の推移(総務省)

親や社会に迷惑をかけたくない
 
  18歳で某大学政治経済学部に進学した我が娘に、7月に予定されている国政選挙に参加する感想を聞いてみました。初めての選挙権行使にワクワク期待を膨らましているのか。または国を憂いて「若者による政党を立ち上げるぞ」なんて気炎を上げているのか。
 彼女はキョトンとした表情で答えました。「選挙なんて行かないよ。誰に投票して良いかわからない。何も知らない学生が大人社会に迷惑かけちゃいけないでしょ」これには、ビックリしました。校舎の窓ガラスを割る歌を歌っていた尾崎豊と同世代の私が学生のころは、大人社会にケンカを仕掛けるのが常識でした。しかし、親しい学校教職員に確認してみると、娘の考え方が、今の学生の多数派であるといいます。彼らから出てくる言葉は、「正しい選択が何かわからないのに、無責任なことをして親や社会に迷惑をかけたくない」
 
 
18歳選挙への教育
 
 公職選挙法等の一部を改正する法律が成立し、公布されました(6月19日施行)。今回の公職選挙法等の改正で、年齢満18歳以上満20歳未満の者が選挙に参加します。世界でも、18歳以上に選挙権を付与している国が約90%と主流です。今回の改正により、およそ240万人の20歳未満有権者が誕生します。これは全有権者の約2%に当たります。
 今回の法改正は、高齢者優遇の政策になりがちな政治において、若い人の民意を反映させるのが目的です。そこで問題となってくるのが若者の投票率の低さです。平成26年の衆議院議員総選挙の年代別投票率は、70歳代以上=59%、60歳代=68%、50歳代=60%、40歳代=50%、30歳代=42%、20歳代=33%でした。ですから、たとえ選挙権を与えたとしても、若い人の民意がどこまで反映されるかが疑問視されています。ではなぜ若い人の民意が必要なのでしょうか。
 
 今年50歳になる私は、どちらかといえば高齢者側の人間です。しかし、アナリストの立場から現状の国家予算配分を俯瞰すると危機感を抱かざるを得ません。平成28年度の一般会計予算は、高齢者向け31%なのに対し、年少者向けは7%(少子化対策費含む)しかないからです。1千兆円という国の借金を背負うのは、これから生まれてくる赤ん坊も含めた若い人たちです。若者や子供のための予算は国の将来への投資とも考えられます。それにもかかわらず7%しか回せていない現状は変えなければならないと思います。それには若者にも選挙を通じて、国の将来を自分のこととして真剣に向き合って投票してもらわなければいけません。また、我々大人の責任として今の国家予算を若者向けに分け合う気概が必要です。
 
 今話題となっている米国の大統領選は、毎度のようにお祭りの如く国民が盛り上がります。それは世代を超えて国の行く末を真剣に考え、議論するからではないでしょうか。何事も国任せにはしないで皆で作り上げるという精神が、今の日本には欠けていると言えるのではないでしょうか。
 振り返ってアナリストの仕事を思うとき、選挙権と議決権が似ている部分があると感じています。どちらも自らの意思を国家や経営に示す権利があり、それによって次世代へと国や企業を引き繋いでいくという点です。もし、私たちがその権利を放棄していたら、ファンド仲間の皆様はどう思われるでしょうか。到底納得できるとは思えません。それは単に職務を放棄しているということではなく、投資先企業のパートナーのような株主になりたいと訴えていることと矛盾し、長期投資の本質をも放棄するからです。
 
 国と企業を同列で語ることはできませんが、そこにある倫理観は一緒なはずです。
 
 
正解を成すのは日常行動
 
 だから、学生に伝えたい。さらに、その両親にこそ伝えたい。学校では正解を選択する行動を求められますが、社会では正解の無い解を選択する行動を求められます。間違わず、人に迷惑をかけない行動だけが求められているわけではありません。他人任せで自分はなにも行動しないことこそ無責任です。自分の住んでいる国の問題は自分の問題です。自信がなくとも選択・行動できる資質を求めたい。
 逆に言えば、間違って良いのです。わからなくて良い。不安で良い。自信があるから行動するのではなく、自信がないから行動してみる。行動するから正解へと近づく。高齢者は、長く生きて勉強し考えてきましたが、実は何もわからないままなのです。むしろ、年少者の行動に刺激を受けて高齢者が考え方を変えるかもしれません。国の変革はあり得るのです。

 
【アナリスト 根本 幸治】

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