Sawakami Asset Management Inc.

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 「相場は悲観の中に生まれ 懐疑の中で育ち 楽観の中で成熟し 幸福の中で消えていく(ジョン・テンプルトン)。」
 私たちは今、どこにいるのでしょうか?懐疑と楽観を行ったり来たりといったところでしょうか。昨年より市場に調整が入ることを意識してきましたが、結果、私たちの想定ほどではありませんでした。しかしその分、将来に起こり得る副作用はとてつもない大きさに熟されている危険性を強く感じています。
 
想定外の出来事にも堅調に推移する株価
 
 第17期の「さわかみファンド」は基準価額が18,913円、純資産額は2,609億円と、それぞれ前期比で▲8.3%、▲8.2%となりました。昨年に続き、守りを意識した運用を続けたことで日経平均株価を2.8%、TOPIX配当込を2.3%上回ることができました。
 
 当期は市場に大きな調整局面が訪れることを想定し、現金比率を約14%と高水準で確保していました。その理由として、中国株バブルの調整が実体経済に影響を与えることや、当局による対応が逆効果となっていることが世界の金融市場に大きな動揺を与えると考えたからです。また2015年末に迫っていた米国の利上げによって自動車ローンの懸念が噴出、個人消費の停滞による米国景気の悪化、さらに日本国内においても消費増税の可能性など景気回復への高いハードルも想定していました。それにも関わらず、景況感に比べ株価が2015年末にかけて再上昇していたことに違和感を覚え、日経ヴェリタスの年末紙面にてドル円は110円超の円高、日経平均株価14,000円割れの可能性を示唆しました。その当時は、ほぼ全ての回答者が強気の市場予想をたて、日経平均株価も下値で18,000円、ドル円は120円以下というのが常識でしたので、私は異端児扱いされたのを覚えています。
 
 振り返ってみると、いくつかの点では予想通りになったものの、株式市場は想定以上に底堅く推移したことは私たちの誤算でした。中国の株式市場は2016年の年初には昨夏よりもさらに下げることになり、米国景気は利上げできないくらいの回復でした。ドル円は100円へと2割近くも円高に、日本においては日銀が目標とする物価上昇2%には届かずにむしろ下がっている始末。選挙対策の側面もあるのでしょうが、当期中に二度も消費増税を延期する必要があったほどです。それ以外にも原油価格は一時30ドル/バレルを割り込むほどに下落、日銀のマイナス金利採用、Brexit※など想定外の出来事が相次いで発生しました。それぞれが市場への下落誘引となりましたが、喉元過ぎると熱さ忘れるではないですが、一定期間後には市場は落ち着き値を戻すという底堅さが見られました。日本の株式市場では、円高進行も企業決算が想像以上に堅調だったこと、そして日銀のETF大量購入が下支えしたことが特徴的です。
 

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割高な銘柄で着実に利益確定
 
 皆さまの「さわかみファンド」の当期の売買行動は、買いが約69億円、売りが約73億円となりました。私たちは企業価値と比較して割安な企業を買い、割高であればきちんと利益確定をすることを運用の柱としています。期中、株式市場が一時的に下落するイベントが何度かあったものの、割安と判断できる企業が限られたことから買い仕込みは比較的少なくなりました。売りについては、為替を考慮しつつも米国での自動車販売がピークに近づいているという判断にて自動車関連を、また市況が悪く当面は好転しにくいと予想される資源関連や割高な水準まで買われた食品や医薬関連でも利益確定を実施しました。
 
 今後も投資先企業との関係を大切に、じっくりと長期投資を進めてまいります。BUY&COMMITへと変化させてからの約3年間で、結果的にTOPIX配当込に対する超過リターンはそれを含む5年間と比べ▲2.9%から+6.0%へと8.9%向上しました。また、さらなる基準価額の向上のためにこれまでなかったIT企業、海外企業の組入れも行っていきます。私たちが生活するうえでITはインフラとして欠かせないものとなっています。実際にサービスを利用している企業が海外の企業だから応援しないという理由にはなりませんし、投資としても優れているならなおのことです。
 
歴史的な金融緩和の歪みに備える
 
 株式市場には調整のマグマがどんどん溜まってきており、いつ噴火につながるのか誰にも分かりません。日銀は現在、日本のETF全体の6割を保有し金額にして9兆円に迫る勢いです。仕組み上、日経平均型に偏っているためにNT倍率も歴史的な高水準にまで歪んでいます。さらに先日、日銀はETFを追加で年6兆円までの追加購入まで宣言しました。アベノミクス当初の2013年、外国人投資家の買い越し額が年間で15兆円超だったことを考えると、その影響が大きいことは言わずもがなです。それでも市場は現在の水準なのですから、歪みが解消される時に大きな調整が起きることは容易に想定できるでしょう。その時にしっかりと買うためにも、「さわかみファンド」の現金比率は10%を目安に維持したいと考えています。
 
 歴史的にこれほどまでに主要国で金融緩和が続いたケースはありません。それだけ現在は大きな歪みの上に成り立っていると言えます。どこかでその歪みが正される時、誰もが想像しなかったことが起きるでしょう。その時にこそ長期投資家の存在意義が試されるのです。
 
【取締役最高投資責任者 草刈 貴弘】

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