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ANAホールディングス株式会社

ANA機体工場(東京都大田区)

 

私達の生活に不可欠な移動手段となった飛行機。
安全を支える整備の流れ、同社の取組みについて学びました。

 

 

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◀ 14:40 整備場概要説明

全日本空輸株式会社、整備センターの中尾様より整備場の概要をお話しいただき、ドック整備の流れなどをご紹介いただきました。
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◀ 15:15 整備場見学
飛行機を間近で見学。機体に郵便マークがありますが、これは郵便貨物を運ぶことを許可された飛行機にのみ貼られているそう。機内にポストがあるわけではないんですね。

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24時間稼働の整備場。ドックの上から全体を見渡します。スケールの大きさに距離感がわからなくなるほど!奥の整備場扉は25mプールと同じ寸法とのことです。

 

 

 

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◀ 16:15 ご講演
整備センター副センター長の菊池様よりご講演いただきました。

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成長の軸となる事業基盤は「安全」

 
 今回は羽田国際空港に隣接されているANA機体工場を訪問しました。当日は木枯らしの吹きすさぶ12月にもかかわらず、非常に多くのファンド仲間の皆様にお集まりいただき、同社に対する注目度の高さを感じました。
 同社は1952年にヘリコプターによる運送事業を営む民間企業として産声を上げました。ANAの便名には航空会社コード“NH”と記載されており、これは何の意味だろうと思われた方もいらっしゃると思います。実は創業時の社名である日本ヘリコプター輸送を略したものなのです。
 1954年に飛行機による国内航空事業を始め、1986年には国際線事業へと事業領域を拡大していきました。航空業界は、巨額の設備投資を必要とする一方で業績は外部要因によって大きく振れやすく、経営の舵取りが非常に難しいので世界的にも倒産や再編が激しい業界です。そのような中で同社は常に長期的な目線で堅実な経営を続けてきました。
 多くの競合企業が苦しんだ、2000年初めのアメリカ同時多発テロ事件やSARSによる航空需要の大きな落ち込み、2008年のリーマンショックを乗り越えて、近年は中国の爆買いに象徴されるインバウンド需要の高まりも追い風となって着実に利益を拡大させ、未だに自主独立を貫いている数少ない企業です。65年前に2機のヘリコプターで事業を始めた小さな民間企業は、弛まぬ努力の積み上げにより、今では年間旅客数が5,000万人を超える世界的な航空会社へと成長していったのです。
 日本航空機開発協会が公表している「民間航空機に関する市場予測 2014-2033」によると、アジア・ 太平洋地域と北米、欧州を結ぶ航空需要については、いずれも長期的な需要の増加が期待されています。同社は羽田と成田のデュアルハブ構想を打ち立て、財務基盤、そして安全基盤を堅持しながらも積極的に国際路線を拡大させています。

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国際路線拡大の鍵をにぎるボーイング787
 今回訪問した機体工場では、ボーイング787の実機を前にして、その特徴を解説していただきました。
 2004年に世界で初めてボーイング787を50機発注(現在は83機発注)し、ローンチカスタマー※となった同社は、開発段階から機体の開発に携わり、自社のニーズを標準設計に反映させてきました。この機体の最大の特徴は、何といっても燃費効率が良いという点です。機体構造の基本素材に東レが開発した軽量・高剛性の炭素繊維複合材を採用することで機体を格段に軽くしています。そして、エンジンには燃費効率の良い英ロールスロイス社製「Trent1000」を搭載することで、従来機よりも燃費効率を飛躍的に改善させることに成功しました。CO2やNOxの排出量も削減されており、環境にやさしいエコな飛行機とも言えるでしょう。また「Trent1000」は排気流とエンジンの周囲を流れる空気との混合を最適化することで騒音も低減しています。騒音を45%とカットしたという同機の発着シーンをドック(格納庫)から観察してみると、他の機体と比べて音が数段に静かだということがわかります。
 燃費効率を飛躍的に向上させたボーイング787は、1機当たり年間数億円の燃費削減効果を生むだけでなく、小規模な空港でも離着陸が可能な中型機でありながら、長距離飛行にも対応できる付加価値の高い機体となりました。ボーイング787の登場により、需要が見込めるものの大型機では採算ベースに乗りにくい長距離路線に対応できるようになったのです。そして2011年、世界で初めてボーイング787による定期運航を始めた同社は、現在もなお競争優位性を保ったまま国際路線を拡大させています。

 

「安全」こそが最も重要な事業基盤
 ANAホールディングスの片野坂社長は、同社の事業基盤は「安全」だということを常に言われています。国際路線の拡大が攻めの取組みであるのであれば、同時に安全を確保するための守りに対する取組みにも注目しなければなりません。
 同社は「社員同士が発展的にそして協調的に意見、指摘すること」をアサーションと定義づけ、万全のチーム体制を築くための合言葉としているそうです。小さなミスが大きな事故へと発展していく恐れのある事業だからこそ、職域や職責に関係なく互いにミスを指摘しあう環境づくりに尽力しなければならない。今回の訪問では、そんな環境づくりへの取組みの一部を確認することができました。
 また、機体の詳細点検や修理を行う実際の整備現場では、整備に対する様々な取組みを解説いただきました。特に印象的だったのは、どんな小さな工具の紛失も見逃さないよう徹底的な管理体制が敷かれている点です。実際の現場では、工具箱の道具を使う前後には必ず作業者間でチェックを行い、万が一何かひとつでも工具が足りなければ、全ての作業を止めて見つかるまで全員で捜索をするそうです。こうした安全という観点から様々な作業の優先順位が決められ、実際に運用されている点を確認できたことは、一般消費者としても投資家としても重要なことでした。
 同社が私たちに提供してくれるサービスは、もはや私たちの生活に欠かせないものとなっています。同社は生活基盤を支えてくれる企業と言っても過言ではありません。そんな大切な基盤を裏で支えている実態に触れることのできた訪問ツアーでした。
【運用調査部長 岡田 知之 】
※ローンチカスタマー:航空機の新規開発の後ろ盾となる航空会社のこと。

 

参加されたお客さまの感想

●アサーションの取り組みは非常に興味を持った。多くの企業が技術の伝承に苦労している。面白い取り組みだ。
●安全運航をマネジメントするサービス提供側の実践内容を具体的に見聞することでANAに対する理解が深まりました。
●整備の緻密さ、整備士のトレーニング、組織としてのシステムの完成度。感動しました。
●メンテナンスの話を聞いて、ANAの利用がこれから面白くなりそう。タイヤの溝が縦のみとか787エンジンがロールスロイス製とか裏話が面白かった。
●ANA全体の企業としての取組みが伝わり、単なる工場見学にとどまらないものを感じる。
●夕方飛行機が入庫して、翌朝の一便で出発するまでの夜間に整備が行われていることを知りました。昼夜逆転の緊張を伴う作業だとうかがい、本当に尊い仕事をされていると実感しました。
●カーボン素材を使用することが、機体を軽くするだけではなく日本の工業を支えることにもつながっているというお話が大変印象に残りました。ここまできめの細やかな整備はLCCには真似できないと思いました。

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