『 地球規模で課題を解決する 』 住友化学株式会社

総合化学にこだわり躍進続ける同社。
知の結集でシナジーを生み出す成長の源泉とは。

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住友化学株式会社
代表取締役専務執行役員
(コーポレートコミュニケーション、経理、財務、購買、物流 統括)
野崎 邦夫様
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取締役最高投資責任者
草刈 貴弘


住友の事業精神
草刈(以下草) 御社では住友の事業精神を決算説明会等で必ず映しています。これを見ると、何のために企業が存在するのかをいつも考えさせられます。これはある意味で短期志向の投資家に向けてのアンチテーゼなのでしょうか。
野崎(以下野) アンチテーゼとまでは言いませんが…。投資家と我々は時間軸が違うと認識しております。「うちは2~3年で考えている長期投資です!」と言う人がいるのが現実です。我々から見れば超短期、そんなスパンで事業はやっていけません。私は入社37~38年になりますが住友の事業精神にある「浮利にはしり軽進すべからず」という言葉を新入社員の頃から植えつけられています。言葉で習うだけでなく先輩方の考えとして染みついている。弊社では住友の事業精神が上位概念にあり、それをもとに住友化学の経営理念があります。
 もう一つ社員の心に長く受け継がれているのが「自利利他 公私一如」という考え方です。住友の事業はパブリックの利益と同一でなければならない。この2つをもとに行動するということが会社の中に染みついています。
 それはグローバル企業になった今でも、世界中の社員に受け継がれているのですか。

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 「住友化学100年の歩み」という冊子があり、これは多くの言語に訳されて全社員に配られています。海外の合弁会社等にも配りますが意外と理解してくれる方が多いようです。

 以前米国の比較的小規模な会社を買収しました。100年以上の歴史がある家族経営のような会社です。彼らは、自分達のバリューは「Respect each other, trust each other, team work」であり、これで100年やってきたと言うのです。これは私達の400年の歴史と非常に似ているなということで分かり合えました。その会社は元々、アフリカで収穫した胡椒を米国で販売する商売をしていたのですが、運搬する際に必要な除虫菊のほうが商売になると事業を転換しました。そこで我々の事業とつながり買収に至りました。 一般的に、米国というと企業を切ったり貼ったり、儲かれば良いと考えるお国柄の印象を持たれていると思われますが、我々のような価値観もきちんと存在している会社もあります。だから我々の考え方は世界でも理解されるのだと思います。

ポジティブに課題を解決

 総合化学や石油化学というと、一般的に「人体にも環境にも悪影響」といったイメージがどうしてもつきまといます。でも私達の生活は、石油化学から生まれたたくさんの製品に囲まれ、その恩恵を受けているはずなのです。そのギャップについて御社ではどう捉えているのでしょうか。

 まず初めに総合化学には石油化学の分野と農薬や医薬品等のスペシャリティケミカル分野があります。現在は石油化学の売上高比率は3割に下がってきてスペシャリティケミカル分野が大きくなっています。いまだに化学企業というと石油化学というイメージがあって、昔のなごりで公害等の悪いイメージを強く引きずっているところがあります。
住友化学は、元々は公害を解決するためにできた会社なのです。昔、銅製錬の際に出る亜硫酸ガスが近隣の作物を枯らしてしまう煙害がありました。試行錯誤の結果、亜硫酸から硫酸を使って過リン酸石灰という肥料を製造したのが当社のルーツとなっています。公害を解決すると同時に産業振興(肥料を作って農業を支援する)、まさに「災い転じて福となす」です。これは住友の事業精神と共に誇りと強い意志を持って取り組んできた歴史です。
 ネガティブな要素を少なくする一方で、ポジティブな面を大きくする取り組みがあります。1つは食糧問題。世界の耕作面積は90年代からほとんど変わっていませんが、人口は増える一方なので耕地面積あたりの生産性を上げる必要があります。そこで農薬や肥料は必要不可欠です。さらに最近では農薬だけでなく、クロップストレスマネジメントという農作物の潜在能力をフルに引き出す技術を開発しています。分かりやすい例で言うと、稲穂の倒壊を防ぐために稲穂自体の茎を短くする、あるいは太くするという技術で、環境ストレス(高温、乾燥、低温、塩害、強風など)への耐性を付与するための研究です。これはバイオテクノロジーのようなDNA変換などではなく品種交配や菌の利用などの形で進めています。
 メチオニンという畜産と養鶏で使うエサの添加物もあります。これは成長促進と共に、排泄物中の窒素を減らすなど温暖化対策にもなります。温暖化対策では、プラスチック製品の導入が進むことによる自動車の軽量化もあげられます。外側はまだ鉄板ですがエンジンルームや内装等たくさんのプラスチック製品が使用されています。使われれば使われるほど軽量化が達成され、燃費もよくなることにつながっています。これはガソリン車でも電気自動車でも同じです。
 見えない所で当社製品が使われていますが、我々は広義の意味で社会の課題に少しでも貢献できる製品を多く作っています。

 

技術のシナジーで新たな創造
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オリセット®ネット

  海外の化学メジャー企業はどんどん統合が進んでいて、量で勝負する企業と特定の分野に特化する企業が誕生しています。総合化学と言われる企業は株式市場から取り残されているという評価の中で、敢えて総合化学を進めている意義は何でしょうか。

 

 そうですね、化学技術というのは色々な技術を組み合せることで、全く新しい機能を持った製品を作り出す可能性があります。技術を深く細かくすればするほど技術同士の繋がりがなくなってしまいます。我々は「創造的ハイブリット・ケミストリー」を掲げていますが、一つの会社の中にいろんな技術があり、それをつなげることで新たな製品をつくり出すことがとても大事なことだと思っています。

 

 たとえば一つの事業をやめたとき、財務諸表には現れないけど実はものすごく価値があったりして、後に大きな事業の柱となる…なんてこともありそうですね。今までそのような事例はありましたか。

 

 そうですね、オリセットネットという蚊帳ネットの技術はまさにそれです。これは大まかに3つの技術が入っています、一つは殺虫成分。これを繊維の中に練りこむ技術。かつ5年にわたってジワッと蒸散させる技術。他社でも開発していましたが昔は蚊帳をジャバッと殺虫剤に漬けていました。これでは1~2年しかもたない。5年ももって値段的には1~2年のものと同じにしました。その値段だったのであまり儲かりませんでしたが。そういった技術のシナジーがでてきます。

 

 5年はすごいですね。儲からなかったけど、そのオリセットネットがあったからこそ中東やアフリカで新たなビジネスの機会をいただいたりしたわけですね。

 

 そうですね。他にも汎用の合成樹脂などは石油化学の範疇にあるのですが、自動車のエンジン部品ともなると耐熱性や精密性が求められます。石油化学も必要だけどスペシャリティな技術も必要、そのシナジーを追求するためには総合化学である必要があります。
 また、我々は公害問題等があって広義での安全性に強いコミットがあります。その代表例として、公害の毒性に対する公的な規制がまだ厳しくなかった1980年代から安全性だけを研究する研究所(生物環境科学研究所)を作りました。必要な技術と研究でシナジーを出し安全も担保する。海外メジャーにまともに勝負をかけても勝てませんから、我々のスペシャリティな分野、勝負できる分野を強めていきます。

 

 技術のシナジーをもって、勝てる分野にはきちんと投資するということですね。成長戦略として海外メジャーにはない技術を持つ。その代表例である農薬の強さの源泉は何でしょうか。

 

 日本で一番といっていいくらい多くの新薬を開発してきた技術の蓄積ですね。
 これは想像ですが、新たな製品が生まれるまでに、海外メジャーのように失敗があったらすぐに打ち切りにはせず、当社には失敗を許容しながらも最後までやり抜く風土があるからこれが達成できたと考えます。また、先に申し上げた住友の事業精神が浸透しているので、研究者一人ひとりが自分の研究テーマで成果が得られる仕事だけに目を向けるわけではなく、社会や私達の暮らしにどう貢献していくかという意識が根付いているためと考えます。

 

 

注力する事業領域
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 農業関連以外にもキードメインとしてライフサイエンス、ICTがあります。ICT分野は競争が激しく、御社の時間軸には合わないと思いますが、それでもキードメインとして掲げている意味は何でしょうか。

 

 ICTは今まで液晶ディスプレイ関連がメインでした。今は有機ELに移っています。まだ若い技術なので技術革新が激しく、中国や韓国勢もどんどんでてきています。だから厳しいのではという見方もありますが、新しいものを作らなければいけない時代にこそ技術力が必要なので、他国勢よりも一歩も半歩も先に行ける分野だと思っています。有機ELが普及すれば液晶よりも薄くて、軽くなり消費電力も少なく済みますので、環境にも良いことになります。
 ICTとは違いますが、ひょっとして大化けするのではというのが CO₂ の分離膜のビジネスです。最終的な実証実験をやっており間もなく事業化されます。CO₂分離技術は、水素の製造や天然ガスの精製などにおいて、目的のガスからCO₂を除去するために適用されている技術なのですが、現在の CO₂ の分離技術はすごくエネルギーを必要とします。一方で、我々がやっているのはほとんど圧力をかけず、熱もかけない、膜に気体を通すことで CO₂ を分離するという技術です。取り出せるのは半分程度ですが、これまでの設備の前工程に入れるだけでトータルでは CO₂ 排出もエネルギーも削減できます。技術で地球規模の課題を解決するというのは、我々の目的とも合致しているので注力したい分野です。

 

 課題の解決先が地球規模とは素晴らしいですね。研究開発に携わる方は海外からも人がきているのでしょうか。
 日本だけではなく英国にも研究所があって、そこには様々な国籍の研究者がいます。韓国には大きなディスプレイ関係の材料工場があり、設立して20年経つのでずいぶん研究者が育ちました。当社の現在の情報電子化学研究所の所長はそこで育った人です。
  これは主にエンジニアですが、新卒のうちの一定数は外国人を採用しています。そうやって様々な人材が色々な場所で活躍し、研究開発を促進していきます。
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▲100周年記念の船。人類社会が抱える課題を 化学の力で解決し、この船のように明るい未来を 力強く切り開いていく決意を表現。後ろは今回の 対談の担当者、弊社取締役最高投資責任者の 草刈貴弘。


知の集結で課題を解決

 取締役会や経営会議などで、「住友化学の良さはここだ」と再認識することはありますか。

 

 新入社員で入った時に驚いたのですが、課長も部長もみな名前で呼び合うのです。ざっくばらんというかそういった風通しの良さが良い所ですね。
 もう一つは社長がよくいう言葉で「君子財を愛す、これを取るに道有り」というのがあります。事業をやっている限り利益を上げなければいけない、ただ道を外してはいけないと言っています。住友第二代総理事、伊庭貞剛の言葉です。これはとても大事だと思います。

 

 昨年、サウジアラビアにある御社の建設中のプラントに伺った際、延べ数万人単位の工事関係者で立ち上げていく規模には圧倒されました。その際に「普通の投資家は分からないかもしれないけど私達は100年先を見てビジネスしているんです」という話がすごく心に刺さりました。今後のビジョンをお聞かせください。

 

 我々は化学企業であるということに誇りを持っています。化学という学問の名前そのものが産業名となっている珍しい業界なのです。これが意味することは知を結集し、様々な地球上の課題を解決するものを作る技術力を磨いていく産業であると考えます。どんどん変わっていいんです。変わっていくべきもの、そうではないものをハッキリ分けて進む、これが我々の考えです。
※ICT:情報通信技術

 

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住友化学株式会社
代表取締役専務執行役員
(コーポレートコミュニケーション、経理、財務、購買、物流 統括)
野崎 邦夫様

1956年京都府生まれ。1979年3月大阪大学経済学部卒業、同4月住友化学工業㈱(現住友化学㈱)入社。4年に亘る英国駐在を含め、主に経理、財務に関する業務に携わる。2002年経理室部長、2007年執行役員、2009年常務執行役員、2014年代表取締役専務執行役員。