バイオ医薬品企業への投資について

生まれてから死ぬまで私たちの身体は常に私たちとずっと共にあるのに、実はまだ私たちの身体には分かっていない仕組みがたくさん存在します。しかし近年、少しずつ分かってきた私たちの身体の仕組みを利用した医薬品が開発されるようになってきました。それがバイオ医薬と呼ばれる医薬品です。
本コラムでは、バイオ医薬の基礎知識、なぜバイオ医薬が注目されるようになったのか、そしてバイオ医薬品企業への投資に対する考え方の順に、皆様にお伝えしていきます。

基礎知識
バイオ医薬に明確な定義はありませんが、従来の化学物質の働きを利用した低分子医薬品と異なる点として、生物の身体に元から備わっている仕組みを活用した医薬品と言えるでしょう。 例えば、免疫の仕組みを利用した抗体医薬品、遺伝子の仕組みを利用した核酸医薬品、アミノ酸の連なりを利用したペプチド医薬、細胞が身体の組織に変化する仕組みを利用した再生細胞医薬などがあります。少し前に話題になった小野薬品工業の「オプジーボ」という薬も、「ヒト型抗ヒトPD-1モノクローナル抗体」という抗体から作られた医薬品です。
2006年にiPS細胞(induced Pluripotent Stem cell, 人工多能性幹細胞)を創りだした、京都大学の山中伸弥氏らの功績は、再生治療に対する社会の関心を飛躍的に大きくしました。iPS細胞を使った治療では、髙橋政代氏らによる加齢黄斑変性という目の病気の治療例※1が存在します。

バイオ医薬の注目点
バイオ医薬が着目されているのは、化学物質を用いる低分子医薬品では到底なしえない治療を、バイオ医療では行うことができる点です。例えば抗体医薬品に関しては、病気になった細胞だけでなく正常な細胞にも毒性を与えてしまう低分子医薬品に対して、抗体医薬品は病気の細胞を狙い撃ちにできるため副作用が小さいという利点があります。
核酸医薬は低分子医薬品が狙えないDNAやRNAという私たちの身体に備わる遺伝情報システムに作用し、私たちの遺伝子に原因がある病気などの治療が期待されています。再生細胞薬に至っては、事故や病気で失われてしまった神経細胞や臓器など、身体の組織そのものを作るという点が画期的といえるでしょう。他にも、特定の細胞とだけしか結びつかないという抗体やペプチドの性質を利用して、狙った細胞にだけ薬を届けるミサイル療法など、革新的な治療方法が生み出されています。
特に再生細胞医薬品については、行政のサポートも始まりました。再生細胞薬にある程度の有効性、安全性を確認することができれば、全ての臨床試験を完了する前に、条件・期限付きで医薬品を販売できるよう法律が改正されました(改正薬事法※2)。この法改正の画期的な点は、日本が世界で最も早く再生細胞薬を承認できる体制を整えたことにあります。一方米国でも2016年2月に21st Century Cures Actという法律が可決されました。今後再生医療が先進医療として新しいカテゴリーに識別され、再生細胞医薬品の承認がスピードアップされると期待されています。
経済産業省の予測では、世界の再生医療の市場規模は2020年に1兆円、2030年には12兆円規模になると見込まれています※3。低分子医薬品のイノベーションの余地が徐々になくなっていると言われている現在、この巨大な市場を取り込むため大規模製薬企業から創立間もないベンチャー企業まで、様々な企業や大学、研究機関が再生医療の研究開発に鎬を削っています。

バイオ医薬企業への投資
最後に、バイオ医薬品を開発している企業への投資について、アナリストとして私が重視することをお伝えします。この業界では、夢のある医薬品を開発していても、実際には利益を稼ぎ出せていない企業が数多く存在します。そしてひとたび利益を出すと、これらの企業の株価はとてつもない高値をつけるという特徴があります。ゆえに夢を信じて、「利益なんて関係ない」という度胸に従い、株価の値上がりを狙うのも一つのやり方ではあるでしょう。
しかし、私はこれまで培ってきたのと同じやり方で、バイオ医薬品企業も評価したいと考えています。すなわちバイオ医薬品の可能性だけでなく、製造と流通という製造業的な視点や、医師にとっての取り扱い易さ、患者にとっての生活の質の向上といった顧客視点でも評価しています。そうして将来の事業の成功に確信を得た企業についてのみ、将来得られる価値と株価を比較し、割安な価格と判断すればリスクをとって買いを推奨するやり方にこだわりたいと思います。そうしてはじめて、優れた企業の一部を所有することで利益を得るという、私たちの価値観に従うことができるからです。

アナリスト
加地 健太郎

※1 http://www.riken.jp/pr/press/2017/20170316_1/
※2 http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000045726.html
※3 http://www.meti.go.jp/committee/kenkyukai/seisan/saisei_iryou/pdf/004_02_00.pdf