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2019年、TPP11と日欧EPA発効で、
メガ自由貿易圏が始まる

米国抜き11か国によるTPP合意に続き日欧EPA交渉が妥結、ともに19年発効を目指しています。工業製品と農林水産品の8割以上で関税が撤廃され自由な市場が誕生、日本は通関手続きを迅速化し、ベトナムやマレーシアではコンビニ出店規制が緩和される見通しで、農業にとっても販路拡大の好機が訪れそうです。
農林水産分野では、ソフトチーズなどは国内酪農家の生産拡大を削がないために、そして大衆魚のアジやサバでは漁業保護のため関税撤廃は16年目となる見通しです。農産品重要5品目の約2割で関税撤廃の例外が決まりました。コメの関税は維持し輸入枠が新設され、国が国産米を備蓄米として買い取り、生産者の需給には影響しないと算定しています。麦も国家貿易制度を維持しEU輸入枠が設定されます。豚肉は10年間の関税削減期間も差額関税制度を維持、基準輸入価格546円/kgより輸入価格が低い場合には、関税で基準価格に満たない部分を徴収し、輸入価格が524円/kg以上の高価格品は4.3%の従価税で、セーフガードがあります。牛肉は16年目に関税9%、輸入急増に対してはセーフガードがあります。酒類では、欧州のボトルワインの関税が1ℓ125円か15%の税率が撤廃される一方、EUは日本ワイン(日本産葡萄原料)を欧州ワイン適合品と認定し、域内輸入の制限がなくなります。日本では、欧州ワインは手頃な価格品が増え、高級日本ワインの輸出機会が増えることになります。

水田農業はインテグレートの途へ

農林水産省が5年毎に調査する農林業センサス2015によれば、2010年と比較し農業経営体総数は137万体で18%減少の一方、法人経営は2万7千体で25%増加、会社法人は1万7千体で28%増加し農業経営は法人化が進んでいます。耕地面積は、北海道は100ha以上が増加、都府県では5ha以下の小規模農家が減少し、5ha以上の経営体が58%を占めています。農産物販売は、販売規模別でみると年商5千万円以上の層が増加し、観光ファームや加工品直販などBtoCへ展開した積極的な法人が成功しています。
農林業センサスを基に、農研機構等が予測した水田農業の構造変化では、2020~30年に75歳以上の農家の大量離農による放出耕地を法人が借り受けると、担い手の大規模化が進み、北海道では100ha以上、中国地方92ha、東海・近畿70ha、北陸・東北50~60haの大規模耕地に集約される予想です。今も茨城県には高齢リタイア農家から水田を借り受け圃場380枚、面積125haに拡大、 圃場管理のIT化、有機米直販や米粉加工品で高収益農業を実現している成功例があります。 IT営農支援に加え、病虫害や収穫を管理するドローン、複数で協調するロボットトラクターは実用化が始まります。 土地利用型水田農業なら、競争力のある銘柄米の輸出拡大も可能となり、水田農業もインテグレート化が予想されます。

90年代からの自由化で寡占化が進む
畜産インテグレーター

すでに牛肉は国内消費量の6割が中食・外食用途の外国産に依存しています。2021年には牛肉関税は38.5%から27%に下がるため、デフレ解消で賃金も上昇しているのに、牛丼の価格は同じかもしれません。豚肉の5割が外国産で用途は加工・中食・外食向けの一方、家計消費では国産比率が上昇しています。鶏肉は家計や中食・加工とも国産志向が高まり7割近くが国産品です。国産食肉はブランド化が進み、銘柄ミートの出荷割合は牛60%、豚41%、鶏45%になりました。自由化に晒された畜産業では、安価な輸入品に対抗するため、銘柄品で差別化する経営を選んだ畜産家によって、安心で日本人の食味に合うブランドミートの市場開拓が進みました。
飼養戸数をみると、肥育豚は過去10年強で半減し4830戸、規模別では2000頭以上の畜産家が7割を占め、ブロイラーの飼育戸数も半減、年間50万羽以上出荷する大規模養鶏家が全体の4割となり、寡占化が進んでいます。
2015年の農業総生産額は8.7兆円、うち畜産は3.1兆円で35%を占め、米や野菜を抜いて主要な位置につきました。注目点は、シニア層の食肉消費量が過去10年間で1日10g以上増加しており、食肉需要は今後も堅調で国産志向も強まると思われることです。

経済性の高い優れた飼料のニーズは高まる

飼料穀物コストは長期的に上昇が予想され、飼育効率に優れる飼料やエコフィード、病気予防・健康管理の高度化が畜産家に要求されます。このため、資本力が必要となってインテグレーターの寡占化は進み、川上の穀物調達から川下のコンシューマー事業との協業まで収益性を求める投資意欲は止まないと考えられますので、その関連産業に注目しています。
銘柄牛や銘柄豚は香港、米国やシンガポールに輸出されており、中国の豚肉輸入は2015年78万tから24年には128万tと予想され、アジア圏への輸出促進も期待できます。家畜の健康や肉質の決め手となる優れた飼料のニーズは強いと考えています。

【シニアアナリスト 歌代 洋子】

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