おいしさの先に

 贅沢三昧の王様が、究極のおいしさを求める旅で辿り着いたのは、誰もが見慣れた井戸水だった。
この童話が思い出されるのは、軒先で朝採りの野菜を販売する近所の農家、古来よりある雑穀を栄養価の高い未来食として商品化した生産者、食卓と産地を結ぶ農ビジネスに取組む企業。このような身近な人や企業との出会いの中で、「食」の社会課題を解決するきっかけが私達にあると考えたからです。

当初筆者は、食の課題を示す目先の数字に目を奪われがちでした。例えば、食料自給率。日本は農林水産省によると過去最低水準 (カロリーベース 38%)を推移しています。ただし、地域別に偏りがあり、北海道他19県は約50~190%、東京・大阪は1%前後です。自給率の低さから将来の食料不足を懸念するなら都会ほど深刻です。一方、国全体の生産力低下の要因を、地方における農業の担い手不足と捉えるならば、背景にある農家所得の減少等にも目を向けるべきでしょう。
また、食べられるのに廃棄される年間646万t(2015年度 農水省推計)もの食品ロスは、誰もがモッタイナイと思うはずです。しかし、生産者が事業を継続するには一定の利益が必要です。従業員に給料を払い、生産設備を整え、原材料を仕入れる。そのためには廃棄が生じてでも、商機を逃さず売るための生産が必要だったと考えられます。
このような食の課題に潜む生産者の現状は、「おいしさ」と「安さ」「便利さ」を求める消費ニーズに応え続けてきた結果とも言えるでしょう。自給率の低下や食品ロスの増加は、私たち生活者の消費(日々の買い物や食事)が生み出した課題でもあるのです。

そこで今、生活者と生産者のつながりを再構築し、双方が効用(食への満足や売上)を高めながら食の未来に貢献するサービスが、広まりつつあります。旅先や近隣の直売所で、新鮮な農作物やリーズナブルな価格に驚かれたことはありませんか?1つ1つの商品に生産者の名前やこだわりが見られ、産地の活気を感じながら納得した買い物ができる。また作り手も販路の確保、流通コストの削減、ニーズの把握、顧客へのダイレクトな情報発信ができる。それら直売所同様のメリットを、生活者と生産者が全国のスーパーやインターネット上で普段から利用できるサービスを展開する企業が増えています。背景に、企業によるITや物流網を駆使した生産者へのサポートがあります。積載率の低いトラックや公共交通機関を利用する出荷体制、生産者自身による値決め、販売データのフィードバック、環境に配慮した生産プロセスを証明する資格取得の支援。これらは産地と消費地を結ぶ新たな販路を築き、大量廃棄を前提としない需要予測に基づく生産計画を促し、国内外の消費者へ商品のPR力を高めます。
Eコマースでは、生活者の潜在ニーズを汲んだ企業のサービスも見られます。大勢の会員がいる企業は、大量の顧客プロフィールと購買履歴を解析し、一人一人の嗜好に合う買い物メニューを提案。顧客本人が予想もしなかった商品や生産者と出会え、買い物に楽しみが加わります。また、働くママ層の声を取り入れて誕生したミールキットは、顧客参加型の商品開発の事例です。家族に安心できる食材で手料理を振舞いたい、でも献立作りや仕込みの手間を軽減したい、使い切れない食材の無駄を失くしたい。これら要望に応え、一定の生産条件をクリアした国産食材のみを採用し、サッと炒めるだけで仕上がる料理セットが販売量を伸ばしています。食のおいしさと安全性は犠牲にせず、作る手間と食材の廃棄を省く。生活者の正直な「胃」と「心」に、企業が生産者ネットワークと加工技術で応えます。

おいしいものを食べたい、家族に食べさせたいと思う一方、価格にも敏感な生活者。
自然を相手に手を休めることなく、おいしいものをつくり続ける生産者。
そして、生活者と生産者が交わる食のプラットフォームを築く企業。
振り返れば、戦中戦後に国が食料需給の安定化を図り価格統制する間、買い手と売り手は互いの状況が見えにくくなっていたのかもしれません。生活者と生産者のつながりを再構築するサービスによって、持続的な消費が生じれば、生産者は持続可能な生産や投資を行いやすくなります。国の保護ではなく、経済合理性に則った持続可能な生産者・生活者・企業の関係こそ、食の課題解決の土台ではないかと筆者は考えます。

冒頭の童話では、ご馳走に食べ飽きた王様の悩みは、自ら畑仕事を行い、乾いた喉を井戸水で潤すことで解決されました。今日、食の課題は複雑に絡み合い、国も農協法改正による国内農業の競争力強化、フードバンクを支援する税制優遇、食品リサイクル法による廃棄の発生抑制・再利用の促進等の政策を取っていますが、解決には至っていません。ただし、その糸口は、職場や家庭で日々汗を流す私たちの暮らしにも潜んでいるはずです。
食の課題が、おいしさを求める生活者・生産者・企業に関わることである限り、私たちが選択する消費や投資次第でそのつながりを、未来を変えていくことができるからです。

【出典】
・童話 ピーマン大王(1988年 住井すゑ 私の童話)
・農林水産省 都道府県別食料自給率について
http://www.maff.go.jp/j/zyukyu/zikyu_ritu/zikyu_10.html
http://www.maff.go.jp/j/zyukyu/zikyu_ritu/attach/pdf/zikyu_10-5.pdf
・食品ロスの内訳等/ 食品ロス(農水省)
http://www.maff.go.jp/j/shokusan/recycle/syoku_loss/attach/pdf/161227_4-58.pdf