長期投資アクティブファンドの社会的役割

さわかみ投信は「本格的な長期投資で世の中をおもしろくしていこう」という経営理念を掲げ、皆様と長期投資の航海を共にする上で投資リターンの出し方にも徹底的にこだわってきました。その方針を貫く中で株式の売買行動とは別に、議決権行使においても投資先企業との重要な対話の機会と捉え真摯に取り組んでいます。
今回は決議議案として増加傾向にある「新たな役員報酬制度の導入」を例に挙げながら、さわかみ投信が取り組むバイアンドコミットの取り組みの一部を皆様に紹介しアクティブファンドの社会的役割について考えてみます。

近年流行している議案

近年企業から株主総会へ提出される議案の中には、企業の業績と連動して報酬の割合や額を増加させる役員報酬制度の導入提案が増加しています。具体的な議案の内容として、その権利が発生するための経営目標数値や期間を定めた制限付きの自社の株式を取締役に付与するもの(以下株式報酬制度)が多く見られます。この仕組みの目的としては、権利が発生する目標数値を明確にすることで経営者の業績成長へのモチベーションを向上させ、同様に譲渡制限期間(現金を手にするまで待たなければならない期間)を設けることで中長期の視点での経営判断を促す効果が期待できるとされています。
このような議案は、昨今の経営者と株主の利害を一致させる方向の中にあり株主としては歓迎できるように見えます。しかし、私たちは決して機械的に判断することなく、個別の企業からその意志を汲み取り、時には追加の対話を実行しながら担当アナリストと最高投資責任者(CIO)である草刈と一件ずつ協議を重ね、丁寧に賛否の票を投じています。

議案協議の取組みと葛藤

議案への協議は一次元的な判断ではなく、魚の目や虫の目、鳥の目といった様々な視点から行っています。
まず魚の目として、今回の株式報酬制度導入は流行になっていますが、その背景には政府が法人の内部留保を投資へ向かわせるために環境を整えたことに始まっており、企業が制度導入ありきの姿勢になっていないかの注意が必要です。
とはいえ虫の目で個々の企業の提案を見れば、株式報酬の制度設計において既存の報酬水準枠内において入れ替える形で導入する提案や、上乗せするにしても権利が発生する条件や期間を厳しく設定するなど、この機を成長へのモチベーションに有効活用しようとする気概が透けて見えるものも存在します。
また鳥の目では、業容の国際化の進んだ企業が、従来の国内の同業他社や従業員の給与水準を考慮して決められてきた役員報酬制度から生じる不整合(国際的な報酬水準とのギャップ)を解消していく課題に直面しているという事情も理解しておく必要があります。

このように、私達はその企業の議案を様々な視点から個別に検討していますが、最後は長期投資家の目を加えステークホルダー全体を富ませる方向にあるかを重視しており、これは日頃CIOが発信しているメッセージと繋がっています。
一方で、丁寧に企業の成長に係わりたいと考えている株主にとって、近年進められてきた環境整備は結局のところ骨抜きになってしまっているのではないかという葛藤があります。
一見スチュワードシップ・コードからは株主に「投資先企業への深い理解に基づいた建設的な対話」というその企業の当事者に近い役割が求められており政策からの後押しがあるように見えます。しかし企業からの情報開示は旧態依然のまま歩みを止めており、株主は役員報酬制度に関する提案も結果もその内容は”枠”(全取締役への総額)でしか知り得る事ができません。現状では総支給額の根拠も併せてほとんど情報の開示が無いままその役割を果たそうと努力しているのが実態だからです。

それでも愚直に丁寧に

それでもさわかみ投信では、愚直に前述のような丁寧な議論を重ね議案への票を投じています。もちろん多数決ですので、例えば私たちが否決の票を投じてもその意見がそのまま反映されるわけではなく、小さな声かも知れません。しかし、たとえ議案が可決されたとしてもその賛成率を気にする経営者には声が届き、実際に顔を合わせる形で対話が成立している企業もあります。

昨今の、おつりやポイントで手軽に投資ができるという風潮や、インデックスファンドの台頭が個別企業と共に成長したいと思う投資家の存在をますますくたびれ儲けとさせる気運もありますが、それでも皆様と共に歩むさわかみファンドは、投資の金銭的なリターンだけでなく”おもしろい世の中づくり”に向け本格的な長期投資のアクティブファンドとして挑戦し続けます。

【アナリスト 斉藤 真】