自動車技術の永遠のテーマである軽量化

5月になって木々の緑がひときわ鮮やかになり、人々の装いも一段と軽やかになってきました。今回は、自動車技術の永遠のテーマである、「軽量化」について分かりやすくお伝えしようと思います。昨今は、自動車技術と言えば、「CASE」という略語が頻繁に登場します。これは、Connectivity(つながるクルマ)、 Autonomous(自動運転)、Sharing(シェアリング)、Electrification(電動化)の略ですが、これらだけが自動車業界が注力する技術ではありません。例えば、航続距離の短さが欠点となる電気自動車では、軽量化によって少しでも航続距離を伸ばそうと取り組んでいるのです。

軽量化が求められる背景:
燃費改善の有効な手立て

軽量化の効果: 軽量化によって、①燃費改善、②原価低減、③運動性能向上などが期待できますが、今日、自動車各社が血眼になっている理由は、主に燃費改善です。もちろん、材料の使用量の削減は原価低減をもたらしますが、今日ではたとえ高価な材料を使ってでも軽量化して燃費を良くしたいとさえ考えています。運動性能の向上はクルマも人間も似ていて、スリムになるとキビキビと動きやすいということです。特にクルマの場合には、足回り部品や重心から離れた部位の軽量化が効果的です。

燃費基準への対応: 主要自動車市場では、燃費基準が段階的に厳しくなっていて今後も基準強化が続く見込みです。基準値を達成出来ないメーカーには未達の程度に応じて罰金が課せられるというルールが一般的ですので、未達メーカーは罰金を支払うか、あるいは過達しているメーカーから燃費クレジットを購入して帳尻を合わせることになります。

車両重量は増加傾向: 燃費悪化につながる重量増加の要因は目白押しです。例えば、売れ筋車種が、セダンから背が高くて重たいSUV(スポーツユーティリティビークル)へと変化しています。また、前後左右斜めなど全方向からの衝突安全に関する基準が強化されて、車体前後はしなやかにつぶれて衝撃を吸収する一方で、強靭なキャビンで乗員を保護する必要があります。装備面では、電動化に伴うバッテリーやモーターの搭載、安全運転支援となる自動ブレーキや車線保持のデバイス追加など、重量増につながるものが多々あります。

自動車のマルチマテリアル化:
適材適所で軽量化を図る

軽量化には、①材料置換、②構造合理化、③工法改良という3つのアプローチがありますが、ここでは主流である「材料置換」をご紹介します。「材料置換」とは軽量材や高強度材への置換えを通じて重量軽減を図るもので、結果としてクルマの部位毎に適材適所の材料が使われる、いわば自動車の「マルチマテリアル化」が促されます。

高張力鋼板: クルマの重量を材料毎にみると、7割を占めるのが鉄ですので、鉄が多く使われているボディを軽くすることが有効です。板厚を薄くすれば使用量が削減できますが、だからといって安全性を犠牲にすることは許されません。そこで誕生したのが、厚さを薄くしても高い強度が得られる高張力鋼板(High Tensile Strength Steel:ハイテン)です。ハイテンは引張強度と伸びの特性が多種多様ですが、乗員を保護するキャビンには引張強度に優れるハイテンを使う一方、つぶれることで衝撃吸収をする前部と後部には伸び特性に優れたハイテンを用います。

アルミニウム: アルミは、ホイールに始まり、シリンダーヘッドやブロック、変速機ケース、ラジエーターなどで鉄にとって代わってきています。また、ボンネット、トランクの蓋、ルーフにもアルミ圧延板が使われますが、こちらは費用対効果の点から採用は高級車やスポーツカーにとどまります。加えて、まだ高級車に限られますが、外板だけでなく骨格も含めて車体をアルミにして軽量化を図る車種も増えてきています。

マグネシウム: マグネシウムの比重は1.7で、アルミ2.7、チタン4.5、鉄7.9に比べて軽いという特性があります。但し、難燃性・耐食性・加工性に課題があり、これまではダイカスト工法による鋳物としてハンドルやシートフレームの芯材などに使用領域が限られていました。しかし、材料組成や工法の工夫によって、シリンダーブロックやパネルに使う動きが出ています。

チタン: チタンも軽くて強い金属ですが、中でも、耐熱性や耐食性に優れることが特長です。ですので、エンジンバルブやコンロッドなど高温にさらされるエンジン部品、サスペンションスプリングや排気管・マフラーといった腐食しやすい部位で採用が広がっています。しかし、生産コストの高さが課題で、自動車部品として普及するためには原価低減が必要です。

合成樹脂: 成形のしやすさと低コストの特長を生かして、内外装部品はもちろん、エンジンルーム内の機能部品を始め、電装品、燃料システム、エアバッグ・シートベルトなど安全装備、更には駆動・シャシー部品の一部にも使用されています。今後は、ガラスから樹脂への材料置換が注目されます。光学的特性、対候性、対傷付性が改善されて、パノラマルーフやバックウインドウなどに採用が広がりました。しかし、ワイパー動作や窓の昇降による擦り傷の克服は難しく、ようやく今年、フロントウインドウに樹脂を採用したクルマがごく小規模で発売されます。

CFRP: 強度と剛性が高い炭素繊維と樹脂を複合化したCFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastic)のボディへの採用が本格化してきました。また、従来は自動車でのCFRP採用と言えば、「熱硬化性CFRP」を指していましたが、近年は「熱可塑性CFRP」の採用が始まっています。「熱硬化性」は強度には優れても量産性・コストに難があるため主に高額車での採用に留まっていましたが、価格が重要な量販車では、強度はやや劣るが量産性・コストに優れる「熱可塑性」が適材適所で使われ始めました。

まとめ: 燃費基準強化への対応には、
パワートレインの効率化や電動化に加えて
軽量化も重要

車両の大型化や安全・快適装備の充実など重量増加の要因が重なる中で、燃費基準は強化が続きます。パワートレインの効率化や電動化を進めることは当然ですが、効率化の余地には限りがあることや電動化による大幅なコスト増を考えると、他にも手立てを備えておきたいと自動車業界は考えています。軽量化は古くから取り組まれている永遠のテーマですが、現在は燃費改善の有効な手法として自動車各社が注力しています。

【シニアアナリスト 吉田 達生】