フリーライド(ただ乗り)はもう許されない

「消費者はフリーライドしてきたのではないか。私達は投資する側でもあるが消費者でもある。それが誰かの犠牲で成り立っているのであれば、同時に対処しているかも実態調査すべきではないか」という発言が弊社運用会議の中で出てきた。この発言は、さわかみファンドで投資をしている運輸企業の議論をしている中で起こった。競合も含めその業界全体の話に議論がおよび、社会課題としてどう関与していくのかという問題だ。

製造業を中心に、小売業でも在庫を減らしリーンな(ムダのない)経営をすることが求められている。在庫を減らすということは、まさにJust in timeで材料や商品が届かなければ工場の稼動ロス、販売機会の損失につながってしまう。だから物流が企業経営において重要な課題となり、それを背景に3PL※1といった業態も発達してきた。加えて近年は、インターネットの発達によるEC※2の急増、個人間取引の拡大によって個別の配送ニーズも高まり、宅配便取扱個数は伸び続けてきた(図1)。また、企業間の競争の中から顧客に対してのサービスとして決済代行や再配達の利便性向上、時間指定といったものまで登場し私たちの暮らしを豊かに、便利にしてきた。
この実現は、歯を食いしばり支えていた現場の人々の犠牲の上で成り立っていたのは周知のとおりである。ヤマトHDでいえば、残業代未払いなどによる労働基準法違反で是正勧告を受け総額230億円の支払いを行ったが、あくまでも2年分であるからそれを正確に把握していたら持続が難しいことが容易に分かる。しかし価格に厳しい顧客(法人・個人共に)に対して値上げ交渉は難しく、その状況が続いてしまった。これを是正するために同社は値上げを行い、サービスの変更、一部大口顧客との契約を見直したのだが未だ運輸業界、運送業界の問題は解決には至っていない。特に人手不足の現在、ドライバーの確保は業界全体での課題でもあり、その解決のためには賃金や福利厚生などの待遇を改善しなければならないだろう。つまりそれは更なるコスト増加を意味することになり、顧客である法人・個人の消費者が受け入れるかにかかってくる。最終的には消費者側が値上げを受け入れ、その分の対価が労働者にいきわたることで賃上げと物価上昇の良い循環が生まれなければならない。しかし、そうなっていない業界が他にもある。典型的な業界として上げられるのは介護(福祉)である(図2)。

失われた20年といわれる間に、日本のサラリーマンの平均年収が1997年をピークに下がり続けていることは良く知られている。ここ数年は上昇基調にあるものの、460万円を超えていた当時と比較すると現在は40万円ほど少ない420万円である。このような状況では、いくら政府が「景気拡大局面が続いている」と喧伝しても庶民にその実感はない。この間、何が起きていたのかを産業構造の変化と共に見てみるとその問題の一端が見えてくる。バブル崩壊後、日本企業は過剰人員、過剰債務、過剰設備に苦しみそのリストラに励んだ。それにより賃金上昇の凍結、非正規社員拡大、拠点の海外移転、自己資本増強という方向に進み、押し出された雇用は平均賃金の低いサービス業が吸収し、中でも高齢化社会の到来で突然需要が高まり始めた介護(福祉)業界が大きかった。加えてその介護(福祉)業界の賃金推移をみると下がり続けている(図3)。
需要が高まるにもかかわらず、価格は上昇せず結果賃金も上がらないという通常の市場経済ではありえない動きなのだが、国によって価格が規制されている業界であるのでそのような状況になってしまっている。どういうことかというと、介護(福祉)は国の管轄で行われており介護報酬という形で事業者に決められたサービスに対して決められた価格が支払われる。国家財政が厳しくなっている状況であり、所得を増やしにくい高齢者を考えると価格は上げにくいというジレンマに陥っている。結果サービスに対する適切な対価は支払われず現場の善意によって何とか保っている。

物流も介護(福祉)も、需要は今後も増えるであろう。しかしこのままでは持続可能ではないのは明らかである。これを改善するには国民全体が消費者として「現場の善意に甘えずただ乗りはしない」というように意識を変える必要がある時期に来ているのかもしれない。そうなれば企業は売上を大きくするために適正な価格設定や単価の上昇、付加価値を創造し、労働者は生産性を上げ利益率の向上に努め、消費者は対価を見極めそれに見合った支払いをする。結果経済は動き出しパイは大きくなる。誰かが自分だけの取り分を多くするのではない成長をしなければ、もはや持続できない社会になっていることを肝に銘じる時なのかもしれない。

【取締役最高投資責任者 草刈 貴弘】

※1~Third(3rd) Party Logisticsの略。企業が、物流機能の全体もしくは一部を第三の企業に委託するという、物流業務形態のひとつ。
※2~Electronic Commerce(電子商取引)の略。