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米国の持ち家促進政策は返済能力の低いサブプライム層への過剰な住宅ローンへと繋がり、高度な金融工学への過信が住宅バブルを許容するだけでなく、証券化された債務は連鎖的に世界に広がった。そのように実体経済の上で膨張した金融経済は、一部が瓦解した途端に多くの産業を巻き込みダメージを与える。100年に一度の世界的金融危機“リーマンショック”だ。さて、あれから10年あまりを経て世界はどうなったか。

金融危機後の経済を立て直すため、世界は大量のマネーをばら撒いたのは周知の事実。しかしデジタル産業の台頭もあるのか、低金利にもかかわらず企業の設備投資ニーズは減退。債務全体は伸びているものの、企業が選んだ資金の振り向け先は未来ではなく“今”が中心だ。自社株買いなどの還元策は株主を喜ばせる。ROE向上は企業の経営指標の見栄えを良くする。確かにそうだ。しかしそれらが資金使途を見出せない故の行動だったらどうだろう。物的・人的資産への投資タイミングとして現状はやや割高感がある。しかしその解消を待てずに、過剰な内部留保への指摘によって株主還元策に溺れているのであれば末恐ろしい。企業が未来への投資を怠っている状況だとすれば…。

個人においては、将来不安から消費を抑え貯蓄または資産運用を加速させた。その結果、金融危機後の10年間で世界の株式時価総額は世界GDPとほぼ同額の8000兆円超へと拡大した。不動産市場も然り。低金利下では債券よりも収益が期待できると追加マネーが過剰に流れ込んでいる。

いかに金利を引き下げてもマネーが動かないと経済は温まらない。実体経済はマネーの供給量に準じた動きをすべきなのだが、金融危機後はその供給量が実体経済を常に上回り、緩和策が経済を直接的に押し上げるに至っていない。むしろ余ったマネーは金融商品や不動産に流れ込み、自己増殖型の資産価値の上昇を演出、つまりバブルを形成し始めているのだ。また低金利下では企業の本質的な構造改革は進まず、淘汰されるべき企業がゾンビにもなれない。ROEなどの表面的な経営指標が改善しても、将来の稼ぐ力に繋がっている例はどれほどあるのだろうか。仮に金利が上昇を始めたら? 資産価値が剥落したら? 家計・企業のみならず、巨額の債務を持つ政府にとっても致命的な痛手となるだろう。

資金はよりマシな収益を求め動く。以前のFXやビットコインなどの値ザヤ狙いから、昨今は利回りが騒がれるようになった。運用難もあり仕方がないのは分かるが、しかしそれは貯蓄から投資へというスローガンの的を射ているのか。単なる利回り目的の金融商品や不動産に流れたマネーは、資産効果を生むも未来への投資には繋がらない。岩のように動かない我が国の貯蓄神話を鑑みれば、取り組み方が同質な未来志向の長期投信への積立投資に資金をじっくりと移すべきである。間違っても今は表面利回りを求めてはならない。選択肢がなければ、よほどマネーを消費に回したほうが経済にとっては健康的だろう。

2019.5.27記【代表取締役社長 澤上 龍】

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