貯蓄から投資へ②

前月掲載の「貯蓄から投資へ①」では、リーマンショック後の世界の金余りへ警鐘を鳴らした。今月の②は我が国について浅慮を述べたい。

老後資産不足問題(2000万円問題)で金融庁と政府とで茶番を繰り広げている。金融審議会がまとめた報告書は、国民の自助努力を喚起したい金融庁の思惑は外れ、むしろ公的年金への不信を引き起こすこととなった。結果、国民から政府への風当たりは強まり、火消しに追われ本来すべき改革が遅れる懸念も。「面倒なことをしてくれたものだ」というのが政府の立場だ。しかし政治に迷惑がかかろうとも、金融庁は配慮などせず事実を伝えるべきだ。実際、何もしなければ老後資産不足は起こるのだから。そして政府はその面倒を見られないのも事実。それ故の昨今の官製相場であり金融改革だったと考えれば、この度の騒動も確信犯ではないかと穿って見てしまう…もう政府に切るべき札がないのだろうと。

ここで我が国の株式所有の変遷を振り返りたい。財閥解体などで(個人に)分散した資本が企業同士(含む金融機関)の持ち合いへと移行し、戦後の経済成長を良い意味で謳歌した。しかし市場メカニズムが働かない持ち合い(政策保有)は平成バブルを生みだし、バブル崩壊を境に解消を迫られた。その解消を支えたのが外国人投資家だ。平成の30年間で彼らの日本株保有比率は3分の1まで上昇、売買比率に至っては7割と最大の影響力を持つ存在となった。

昨今はその外国人が日本株を売っている。個人もだ。それら売り圧力を吸収し、相場を維持させている存在が公的マネーである。日本株比率を引き上げたGPIF※1、ETF※2買いを通じ大量の資金を市場に流す日銀。これを官製相場という。相場下落の度に買い支えて下値を底固め、出口戦略に不安を覚える市場関係者をドーピング依存症にさせるのだ(世界的な金余りが促す株主還元の流れで、事業法人による自社株買いも台頭している)。

純粋な投資家たる外国人・個人が売り、政策目的の公的マネー・事業法人が買う市場は歪み、そこに永続性はない。前月に記載の通りだが、金余りが逆流し始めたら不動産や株式など資産価値のあるものから総崩れとなる。GPIFや日銀が保有する日本株も瞬時に巨額の評価損を抱え、数兆円以上を消し飛ばす日銀は債務超過になるかもしれない。GPIFを通じた我々の年金もアウトだ。しかし彼らは日本株を売れない。大量放出で株価を下げるわけにはいかないのである。つまり、彼らは自ら担ぎ上げた株式市場の重みに耐えきれず潰れかけているのだ。

では、どうするか? 政府は眠れる巨大資産を保有する個人に目をつけた。個人投資家を日本株の支持者とすれば、政府の出口戦略と国民の自立促進が同時に叶うからだ。“貯蓄から投資へ”は間違っておらず、既に熟れた我が国において誰にも資産運用が必要なのは明白だ。だからこそ地深く根を張った株式市場を浮揚させ、スチュワードシップ・コードなど市場の健全化を図り、確定拠出年金やNISAなど税制優遇策をもって“貯蓄から投資へ”を推し進めてきたわけだ。国民の皆さん、投資する環境は整えましたよ、と。しかし金融危機の記憶残る国民は現相場に懐疑的だ。新規投資家が動きだした程度で、全体はむしろ世界経済の鈍化に冷え始めている。そこへ例の2000万円問題が飛び出してきた。国民の皆さん、日銀の次の主役になってくれないと政府にはもう手がないよ、と聞こえやしまいか?

政府の茶番に乗る必要はない。しかし自身と取り巻く社会のためにも、国民はそろそろ他力本願から脱却すべきだろう。国民が本気で市場参加したら次の相場は強く長いものになるはずだ。そしてその好機到来は遠くない。

2019.5.27記【代表取締役社長 澤上 龍】