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ベートーヴェンの生涯
ロマン・ロラン 著
片山 敏彦 訳
岩波文庫

この頃は、デジタル化だとかIT社会だとかで、情報伝達という面ではすばらしく便利になってきた。その流れに乗って、知的産業と呼ばれる分野がますます脚光を浴びるようになっている。
知的産業といっても、瞬時性や拡散力にどう携るかが重要であって、思考の深さはそれほど重視しない。そんなもの、AIやビッグデータが人間の思考をいくらでも補ってくれる。そういった方向での価値観に、現代社会はどんどん傾いていっている。
長期投資の立場からすると、オイオイそんなので大丈夫かよと言いたくもなる。すくなくとも人間社会は、そう無機質に効率性を追い求めるものではない。
近代合理主義から離れて、情緒とか浪漫主義といったものへの回帰現象は、歴史をたどるといくらでもみられる。ひとつの流れに乗ってしまうのではなく、常にバランス感覚をもって臨もうとする姿勢は、長期投資のみならず生きていく上できわめて重要である。
そんな思いで、本書を読み直してみた。ベートーヴェンという偉大なる作曲家の愛と苦悩、そして貧困とのたたかい。それが至高の芸術に昇華されていく様は、デジタル社会の薄っぺらな金儲け主義とは真逆な方向にある。
ベートヴェンは、ずいぶんと早い段階で耳が聞こえなくなった。それにもかかわらず、次から次へと人間の心を揺さぶる作曲をしていった。どんな作曲頭脳をもっていたのか、人間の能力の深遠さに驚かされる。

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