ユーザー不在のトランプ大統領の日本車批判

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今年からさわかみ投信の運用調査部に加わった自動車アナリストの吉田達生にトランプ大統領による日本車バッシングの影響についてインタビューしました。繰り返される日米自動車摩擦の歴史の中で、どのように日本の自動車メーカーが生き残ってきたのか。必読です!
実は米国ユーザーに
支持されている日本車
西島(以下西) 連日トランプ大統領発信のニュースで賑わっています。とりわけ日本に対して、日米の自動車貿易が不公平であるという趣旨の発言がされています。これは80年代の日米自動車摩擦を想起させるような内容です。日本車は米国での信頼を勝ち得ていたと思っていましたが、実際は異なるのでしょうか?
吉田(以下吉) 日本車が米国に輸出された当初、日本車のイメージは「壊れやすい」イメージであり、修理対応に苦慮した時代もありました。しかし、70年代以降、2回のオイルショックを経て「燃費が良くて壊れにくい日本車」というイメージが定着し米国での地位を確固としたものにしています。米国の消費者の多くは、自動車に限らず良い製品であれば出身国を問わずに購入するという寛大さを持っていて、その消費者に受け入れられている日本車は米国の自動車市場で非常に大きなシェアを占めています。

日米貿易摩擦という戦いの歴史

西 米国民に受け入れられているにもかかわらず、これまで何度も日米の自動車摩擦が起きていることから自国の自動車産業を守る米国の強い姿勢が見えますが、自動車メーカーは数々の日本車バッシングをどのように乗り越えてきたのでしょうか?
 70年代の日本からの完成車輸出急増を受けて、日本の自動車メーカーは81年から米国向けの乗用車について輸出台数の自主規制をせざるを得ない状況となりましたが、その一方では、消費者からの強い需要に応えるために、米国で現地組立工場を設立して対応しました。しかし、現地生産が拡大すると、今度は「組立は米国だが部品は日本から輸入している。」と部品の現地調達比率の向上が要求されたのです。これに対して、日系自動車メーカーは、日本の部品メーカーに対して、米国へ工場誘致をしたり、米国の自動車部品メーカーとの合弁生産を促すなどして、現調率の向上を実現しました。
 90年代になると「米国で日本車が売れているのに、日本で米国車が売れないのはおかしい」と、「機会」ではなく「結果」の平等が求められるようになります。普通に考えれば、日本の狭隘な道路事情や細部に至るまで極めて高い品質を要求する日本の顧客特性を踏まえると、米国の広い道路事情を背景に作られた大型の米国車が、日本国内において受け入れられにくいのは明白です。しかしながら、米国の態度は強く日米交渉は難航しました。結局、この時はトヨタが矢面に立ち、トヨタがGM車を日本で販売することや日本のメーカーが米国部品の購入を拡大するということで決着しました。

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日本車が一番売れる米国市場
西 振り返ると自動車メーカーは日米貿易摩擦の先頭で戦ってきたわけですが、日本が米国に譲歩する姿勢は政治的に見ると非常に弱腰に映りますがそれでも自動車メーカーが対応してきたのには何か理由があるのでしょうか?
 自動車メーカーが米国に様々な無理難題を押し付けられても、突き返せない理由は自動車メーカー各社にとって米国市場が台数と収益の点で極めて重要だからです。日本の自動車メーカーが国内で販売する乗用車の数は年間約500万台ですが、一方、米国内で販売される日本車の数は年間約670万台に上ります。その証拠に、私たちのよく知る日本車の中にも、実は米国向けに作られたものを日本でも販売しているという商品もあります。特に、軽自動車や大型トラックのメーカー以外の日本メーカーは、米国での売り上げにより業績が大きく左右されます。どんなに理不尽な要求を受けようとも、絶対に無視することができないマーケットなのです。
2期8年より、50年、100年の信頼
西 TPP離脱の大統領令に署名したトランプ大統領は、次にNAFTA再交渉を始めるという報道が出ています。メキシコで生産された自動車に対し関税をかけるとの発言でフォードもメキシコの新工場計画を撤回しました。日本の自動車メーカーにはどんな影響があるのでしょうか?
 TPPはまだ発効していない枠組みですが、NAFTAは発効されてすでに20年以上も経っている枠組みであり、自動車メーカーに限らず多くの産業がNAFTAを前提に生産体制等が構築されています。これを反故にするというのは、極めて大きな問題であり、各社のグローバル戦略を根底から覆すようなインパクトがあります。その影響は計り知れないため、全くの想定外ではないでしょうか。トランプ政権は長くても2期8年。トヨタは50年、100年の計で考えて事業を展開しています。何よりも信頼を大事にしながらビジネスを行っています。トランプ大統領に言われたからメキシコ工場の計画を撤退しますということは、進出先のメキシコとの約束を裏切ることになりますし、メキシコ以外の国々のトヨタへの信頼も揺らぎかねませんから、そういった対応は取らないと考えています。
西 最後に今回のトランプ大統領による日本車批判に対して、長期投資家に一言お願いします。
 過去、日米貿易摩擦が起きるたびに日本の自動車メーカーは工夫を凝らして生き残ってきました。また、円高になり収益が圧迫される局面では、コストはもとより業務プロセスに至るまで徹底的に見直すなど、逆境を糧に筋肉質な企業体質を作り上げてきました。まさに、数々の課題が星飛雄馬の大リーグボール養成ギブスのような役割を果たしてきているのです。今回のトランプ大統領による数々の発言に短期投資家は気が気ではないと思いますが、長期投資という時間軸で考えれば大した問題ではありません。日本の自動車メーカーが米国の顧客要求に応える製品を高い品質と性能、リーズナブルな価格で提供するのであれば、引き続き優位性は高いままであり、過度な懸念は必要ないと考えています。

 

【アナリスト 吉田達生】
日産自動車で商品企画、北米事業、アライアンス戦略等を担当した後、外資系証券アナリストへ。自動車セクターでは、日経ヴェリタスアナリストランキングで4回1位を獲得するなど、日本屈指のアナリスト。