正確に間違うよりは、 大まかに正しくありたい

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 市場でモノ・サービスを売買する際にどのような尺度で価値を算出し、現在の価格が妥当であるかどうかを判断していますか?家や車、さらには日用品に至るまで市場には様々なモノ・サービスが供給者の判断に基づいて値付けされ、そして需要者が各々の価値観に基づいた妥当な価格との判断によって購買をしています。つまり、私たちは意識的にも無意識的にもあらゆるモノ・サービスに価値を見出し、妥当な価格を自分なりに算出しています。株式市場においてもこの原理原則は変わりません。株式も日々需要と供給によって値付けされています。そこには様々な参加者がいるため、それぞれの価値観は異なり、株式の売買における動機に違いはあります。しかし市場で株をある価格で買うもしくは売るという行為に変わりはありません。一般的に市場というのは、価値観の異なる者同士が取引する場です。そして価値観の異なる者同士が異なる価格を競争的に主張しぶつけ合うことで相場が生まれます。
世界の勝ち組は独自の尺度を持っている
 世界には圧倒的な成績を残してきた投資家・投機家がいますが、彼らの投資尺度は千差万別です。移動平均線やボリンジャーバンドのようなテクニカル分析やアノマリーを用いてトレーディングの大会で好成績を収めたラリー・ウィリアムズ氏、オマハの賢人と呼ばれファンダメンタル分析に基づいた長期集中投資によって莫大な財産を築いたウォーレン・バフェット氏、経済は機械のように動くという信念のもとグローバルマクロ分析に基づいて世界最大規模の資産運用会社となったブリッジウォーターの創業者レイ・ダリオ氏、数学や物理学などのアカデミックな解析によって市場の歪みを捉えるクオンツ分析によって高パフォーマンスを上げ続けているジェームズ・シモンズ氏などが有名でしょうか。 ここで大事なのは、成功者は自分の得意な分野かつ信用できる手法を用いているということです。それは各人のこれまでの人生のなかで形成されてきた価値観や性格、能力などに起因し、「これしかできない、でもこれなら自信がある」といった自己分析によって決定されるのでしょう。虎の子の大切なお金を投資するわけですから、自身の手法に信頼や自信なくして大胆かつ的確な判断はできないはずです。

企業価値評価の基本構造はシンプル
 株式投資の手法は様々ですが、株式と交換に資金を提供し、提供された資金をもとに得られた利益を出資者に分配するという株式本来の構造を鑑みれば、ファンダメンタル分析によって算出される企業価値に基づいた株式投資が王道と言えるでしょう。企業価値評価には、マーケットアプローチであるマルチプル法やインカムアプローチである割引キャッシュフロー方式などいくつかありますが、その本質は「業績×期待」であるといえます。さわかみファンドにおいても、ファンダメンタル分析による企業価値評価を主な尺度として投資を行っています。レポートや運用報告会でもお伝えしているように、再調達資産のバリュー・収益力のバリュー・可能性のバリューの3つの階層から企業価値を算出していますが、これは証券アナリスト試験に出てくるような一般的な考え方ではありません。とはいえこれも特殊な方法ではなく、本質的には「業績×期待」であるといえます。
しかしどこまで詳細に分析したとしても、正確な企業価値を算出することはできないでしょう。なぜならば将来のことは誰にも分からないうえに、価値基準は投資家に依存するからです。投資の神様バフェット氏も自身の算出した企業価値に対して、あらゆる不測の事態に備えてセーフィティマージンを設けた価格で投資を行っています。企業価値評価の因数の1つである“業績”は時間の変化とともに変わっていきます。そして他方の因数である“期待”は、企業の将来性はもとより、市場に参加する投資家のリスク許容度に左右されるからです。
株式市場の原理原則
 株式市場に普遍的なものがあるとすれば、それは“買う人がいるから売ることができ、売る人がいるから買うことができる”ということに尽きます。現時点で300円の株価が500円になるのか?もしくは1,000円まで上がるのか?それは株式の発行体である企業が決めるわけでもなく、その企業の業績や企業価値が決めるわけでもありません。なぜ300円の株価が1,000円にまで上昇するのかと言えば、1,000円でその株式を買いたい投資家がいるからです。そして1,000円でその株式を売りたい投資家がいるからです。
 この原理原則を肝に銘じたうえで、多様な価値観を持つ投資家が競争的に異なる価格を主張し合う株式市場において、再現的にリターンを得るためにも自身の確固たる尺度を持つ必要があると私は考えます。その1つが企業価値評価であり、歴史的に株価はその企業の本質的な価値に収斂してきたことを心の拠り所とします。先述の通り、正確な企業価値などは分かりませんが、論理的確率論に基づく経済学者ケインズの言葉を拝借すれば、「正確に間違うよりは、大まかに正しくありたい」に集約されます。
 最後に1つの質問を投げかけて締めくくりたいと思います。
 「年間に100万円分の金を生み出すマシンがあります。耐久性は永遠と予測されます。あなたならいくらで買いますか?もしくは売りますか?」
【アナリスト 坂本 琢磨】