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「貯蓄から投資へ」

このスローガンが日本で叫ばれ始めてからどれだけの時間が流れただろう? 積もり積もった1,100兆円もの家計の現預金が眠りから覚め、市場で動き出すことが日本経済の未来への大きな原動力となる。そう久しく謳われてきた。言うまでもなく、さわかみ投信もそんな光ある未来を実現すべく「長期投資」を今日まで日本社会に訴えてきた。

さりながら、全体を見渡せば日本人の預貯金への固執は未だに強く、家計の現預金選好には大きな変化があったとは言い難い。一方、「iDeCo」や「NISA」という制度が日本に生まれ、少しずつ国民の関心を獲得してきたこともまた事実だ。そして2024年に「新NISA」がいよいよスタートする。

最近ではテレビ、書店、そして各種メディアを通して「新NISA」を目にしない日はない。周りの友人・知人からも「新NISAはどうしたら良い?」と質問をうける機会もこの数ヶ月で随分と増えた。くしくも、ここにきて政府から「資産運用立国」なる構想も耳にするようになった。
日本はいよいよ「貯蓄から投資へ」という時代の大きな転換を迎えていくのだろうか?

 

This time is different?

ここで振り返るべきは、これまでの相場環境だ。新しい制度に向けた国民の熱い注目の背景には、リーマンショックを経た2009年から14年以上続く世界的な株式相場の上昇があることを無視はできない。

一般NISAは2014年、つみたてNISAは2018年にそれぞれ導入され、口座数は増加の一途をたどり、現在では1,000万口座を超えるまで成長した。ここで問いたいことは、果たしてこの期間において、市場が大低迷していたならば結果は同じだったのか? ということだ。近年のNISA勃興の背景には堅調だった市場環境が寄与していることは言うまでもない。上昇する相場の中では大きな火傷も負いにくい。むしろリターンが生まれやすい環境の中で、リターンに対して非課税という制度が導入されれば国民が注目するのも当たり前だ。

ところでだ。この相場の上昇は永遠に続くのか?

相場の格言にこんな言葉がある。The most dangerous 4 words in the investment world are “this time is different”。 これが意味するところは「今回はいつもとは違う。今回だけはこの好環境は持続する」と考えることが最も危険であるということだ。言い換えれば、どんなに長く続く上昇相場にも、やがて大きな調整局面がやってくるという歴史の教えだ。それが「いつ」「どの規模」でやってくるかなどは誰にもわからないし推測しても意味がない。しかし、永遠に続く上昇相場などは存在しないということだ。

今日、多くの金融機関がこのNISAという制度を商機とし、顧客獲得の熾烈なマーケティング合戦を繰り広げている。国民も堅調な株式市場の中で次々とNISAへ引き寄せられている。でも、もし何かをきっかけに相場の大きな調整が起こったらどうなるのだろう? きっと、NISAをきっかけに投資を始めたばかりの人も多数いるに違いない。多くの人がこんなことを言わないだろうか? 「儲かるって言ったじゃない!」「下がるなんて聞いてない!」。もはや税優遇どころの話ではない。後の祭りだ。

結果、お金がまた預貯金に大回帰することになれば、現預金1,100兆円で経済を活性化するという大構想は終わりだ。そしてこれは日本経済にとって復活の狼煙をあげる最後の機会を逃すということになるかもしれない。

 

投資に必要なのは大金じゃない、心構えだ

そんな悲惨な未来を回避するためにも、これから投資、とりわけ投資信託を始める人には次のことを伝えたい。

●「経済は生きている」という当たり前の事実を知ろう
・経済も市場も人と同じように熱狂するし風邪をひくこともある。良い時もあれば悪い時もある。

●意思を持って適切な商品の選択を
・短期的な流行は所詮すぐ終わる。市場の流行や盛衰を乗り越え、一貫した投資哲学の下、前回の大暴落を乗り越えたという実績(15年以上)を持つ商品を選択することが望ましい。

●投資は一定のリズムで
・生活に無理のない範囲で、市場環境によらず一定額(あるいは収入の一定割合)をコツコツ毎月積立てていくこと。結果、投資機会を逃すことなくリスクを時間分散できる。口座を開設し、いきなり大金を投じるのはもってのほか。

●心の準備
・投資も商売も、本質は安く仕入れて高く売ること。相場が下降した時には恐れて逃げるのではなく、むしろ安く購入(投資)するチャンスであるという「心の準備」を今から整えておくこと。
・ちなみにそのチャンスとはどんな時か? それはメディアが投資に対して悲観的になり投資を話題にしなくなる時だ。さて、今日はどう映るだろう?

 

さわかみ投信の使命とは一般生活者の財産形成のお手伝いである。そのためにも、私たちは投資に関わる心構え、向き合う姿勢、ひいては哲学を創業以来一貫して社会へ発信・啓蒙してきた。そう、投資に対する心構えを養うことこそが財産形成を実現する上で最も効果的な道筋であり、それはこの日本における真の運用立国に向けた私たちの挑戦なのだ。

【取締役 戦略室長 熊谷 幹樹】

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