
旅客機の扉が開いた瞬間、東南アジア特有の湿った風が身体に染み込むようだった。ベトナム・ホーチミン。この地を訪れるのは、25年ぶりである。
かつて、父に連れられて、ともに歩いた街。父は、「いつかベトナムの古都、フエに移り住み、穏やかな老後を過ごしたい」と語っていた。当時の私の記憶には、その言葉が何度も刻まれている。
そして今、1975年のサイゴン陥落から50年という節目を迎えるベトナムに、私は再び降り立った。四半世紀という時間の巡りに、何か大きな意味を感じざるを得ない。
変わる街、変わらぬ風
街は変わった。高層ビルが並び、人とバイクが溢れ、経済の躍動が聴こえる。
けれども、変わらないものもある。風の匂い。人々の表情。活気とともにある穏やかさ。東京の通勤電車の中で感じる余裕のなさとは、まったく異なる人間らしさがここにはある。
この25年で、ベトナムは力強く成長した。その背後には、企業の挑戦と、それを支える投資があった。そして、何よりも、そこで生活する人たちの消費と未来への希望があった。経済とは、偶然ではない。そこには、いつも理由がある。
希望を忘れた国に、眠るお金がある
一方、日本はどうか。25年ぶりのベトナムとは裏腹に、日本は25年前の方が、未来を信じるエネルギーに満ちていた気がする。今日、多くの年配の人たちは、せっかく蓄えたお金を使うことなく、夢をしまい込んだまま人生を終えていくようだ。若者たちは、自国に期待を抱かず、冷めた目をしている。そんな空気に、社会が飲み込まれつつある。
行動を止めた瞬間に、経済は止まる。今、私たちに必要なのは、「未来へ踏み出す意志」ではないか。
ホーチミンの街には、「もっと良くしたい」という気持ちがあふれている。消費への意欲。成長への期待。人々の表情に宿る希望。それが街を動かし、経済を育てている。経済とは、数字ではなく、そこに存在する「空気」のことなのかもしれない。
心の青春が、経済を動かす
私たちの国には、約2,200兆円の個人金融資産がある。そのうち、1,100兆円以上が現預金として眠っている。この資本が動き出せば、きっと社会は変わる。だが今の日本では、投資は「リスク」と見なされ、未来への意志が止まっている。
もう一度、人の内にある希望や意志の力を信じたい。
アメリカの詩人サミュエル・ウルマンは言った。
「青春とは、年齢ではなく、心の在り方である」
何歳であっても、未来にワクワクする心があれば、人は動き出す。団塊の世代も、シニアも、働き盛りの世代も、そして若者も。すべての世代が「心の青春」を取り戻せたとき、日本は必ず再び動き出す。
そのとき、眠っていた資本が目を覚まし、未来への消費と投資が始まる。私はその動きを、長期投資というかたちで支えたい。日本は、もう一度「青春」を取り戻せる。資本は、未来を変える力だ。眠らせるのではなく、動かすときだ。
すべては、私たち一人ひとりの「心の在り方」から始まる。
資本も、社会も、未来も──動かせるのは、私たちの意志だけだ。
取締役副社長 熊谷 幹樹


