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2025年7月4日

米国心理学会が発行する査読付き学術誌『Journal of Neuroscience, Psychology, and Economics』に、私とドイツ・ハンブルクのヘルムートシュミット大学の研究員である心理学者・櫃割仁平さんの共著論文が掲載された。

テーマは「長期投資とウェルビーイング(心理的幸福感)の関係」

金融と心理学──これまであまり交わることのなかった二つの領域が、学術の土俵で結びついた。

対象となったのは、さわかみ投信の長期投資家である「ファンド仲間」の存在。
曖昧性と向き合う心理学を専門とする櫃割さんが、当時研究顧問として参画してくれた。
(※現在は、一般財団法人さわかみ未来創造研究所(未来創研)の助成対象者として研究活動を行っている)

査読付き学術誌『Journal of Neuroscience, Psychology, and Economics』

査読付き学術誌『Journal of Neuroscience, Psychology, and Economics』

アンケート調査を通じて明らかになったことは──
「投資をしている人ほど、人生に満足し、生きがいを感じ、ポジティブな感情を抱き、曖昧さに寛容である傾向がある」という、明確な結果だった。
統計的にも有意差が認められ、とりわけ長期投資家層において顕著だった。

もちろん、「投資をすれば幸福になれる」と短絡的に言うつもりはない。
因果関係は証明されていないし、幸福を保証する手段でもない。
だが少なくとも、「長期的にものごとを考えられる心構え」が、幸福な心の在り方と関係している──そのことが、学術的に示唆された。

長年にわたり、投資の世界は加速度的に「短期化」している。
企業は四半期ごとの数字に追われ、投資家は日々の株価に踊らされる。
短期的な業績の盛衰に左右されるプレッシャーが高まるなかで、経営者が長期の目線で挑戦する余白は失われつつある。

だが企業は一夜では成長しない。そうした魔法はない。
価値創造とは、時間をかけて育てるものだ。
だからこそ、時間軸を共有できる長期投資家の存在が、企業にとっても社会にとっても、不可欠なのだ。私たちは一貫してそう考えてきた。

そして今回、もう一つの意味が浮かび上がった。
それは──「長期投資家とは、企業だけでなく、自らの内面も育てている存在かもしれない」 ということだ。

投資先の未来に希望を託しながら、社会に関わり、他者に共感し、自身の生きがいを実感する。
そんな投資家の姿は、資本主義の最前線とは違う「もう一つの投資のかたち」を教えてくれる。

仮に、長期投資が広がることで、前向きな心をもつ人が世の中に増えるのだとしたら──
それは、経済成長と人間的幸福のあいだに循環が生まれるということだ。
そんな社会の仕組みが現実になり得るなら、これほど希望に満ちた未来があるだろうか。

投資とは、経済の話であると同時に、文明の話でもある。
資産形成だけでなく、未来への関与、自分自身のあり方、生きがい。
今回の研究は、それらを結ぶ一本の線を、学術の場で静かに描き出した。

その線の先にあるのは、企業の未来だけではない。
きっと、「あなた自身の未来」でもある。

そして忘れがたい偶然がひとつあった。
この論文が掲載された7月4日は、さわかみ投資顧問(現・さわかみ投信株式会社)の創業日でもある。

私たちが掲げてきた、「長期投資を通じて、世の中をおもしろくする」という理念。
その歩みが時を重ね、日本で育まれた実践が、国境を越え、未来への知見として世界へ発信された──

そんな一日となった。

 

【取締役副社長 熊谷 幹樹】

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