
And so Sally can wait—
She knows it’s too late—
As we’re walking on by—
Her soul slides away—
But don’t look back in anger—
I heard you say—

ロンドンを訪れる機会を得た。雨上がりの石畳が光を反射し、街を歩けばユニオンジャックの赤が鮮やかに映える。ロンドンの風景を見ながら、ふと頭の中に流れてきたのはOasisの「Don’t Look Back in Anger(1995)」。過去を悔やむのではなく、未来を見よ。テムズ川の流れを眺めながら、古いはずの曲が不思議と新しく響いた。
最初に口にしたのは露店のオレンジジュース。1杯7ポンド、約1,400円。その後に入ったカフェのランチは4,000円を超えた。日本の感覚からすれば途方もなく高い。驚きと同時に「これが世界の現実か」と突きつけられる。ニューヨークではラーメン1杯がチップ込みで1万円に達するという。私たちが当然と思ってきた物差しは、世界ではすでに通用していない。
なぜこれほど高いのか。要因は複雑に絡み合う。長期金融緩和の反動。戦争や政治の混乱による供給制約。為替の変動。そして英国には特有の事情もある。それはEUからの離脱だ。人やモノの移動がかつてほど容易でなくなり、コスト構造に歪みが生まれた。制度が変われば価格も動く。国民の選択が、生活コスト上昇という痛みとなって返ってきた。ロンドンに限らず、世界の主要都市が直面している現実である。
日本も例外ではない。長いデフレに慣れた私たちは、最近の物価上昇に戸惑っている。しかしインフレの本質は「お金の力が弱まること」だ。通帳の数字が変わらなくても、同じお金で買える量が減れば資産の価値は確実に目減りする。利息が年0.2%でも物価が3%上がれば、実質金利はマイナス2.8%。預金に置いておくだけで、資産はじわじわと削られていく。デフレ時代には気づきにくかった痛みが、いま少しずつ家計を直撃している。
日本の家計には1,100兆円を超える現預金が眠る。これまでは「貯蓄から投資へ」という掛け声のもと、日本再生の原資となるはずの希望だった。しかしインフレがさらに進めば、そのお金は知らぬ間に目減りし、暮らしを削るリスクへと変わる。国にとっても、個人にとっても看過できない課題だ。
では、どう生き残るのか。道はシンプルである。
第1に、稼ぐ力を高め収入を増やす。
第2に、無駄なコストを省き暮らしを軽くする。
第3に、お金を眠らせず、投資という形で世界の成長に参加し、長期の複利で育てる。
これは時代を超えて通用する普遍の原理だ。時代や社会は移ろい、相場は揺れ、為替も動いていく。だからこそ家計の固定費を見直し、毎月の積立を投資に充て、長期で育てる。小さな行動は今日から始められる。不確実な時代だからこそ、確実な行動が未来を守る。インフレの時代、日本人はこれまで以上に過去にとらわれず未来を見据えねばならない。
かつて世界をリードした大英帝国。変化の波に揺れながらも、ロンドンは今も未来へ歩み続けている。この歌が告げるように、過去に縛られず、希望を選ぶ。後ろを悔やむのではなく、これからを設計する。その積み重ねが、私たち自身の生きやすさを支え、次の世代の未来へとつながっていく。
Don’t Look Back in Anger
人生は一度きり。
だからこそ、過去ではなく未来へ、
その一歩を踏みだそう。
【取締役副社長 熊谷 幹樹】


