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気づけば私たちの生活には海外のデジタルサービスが深く浸透している。私自身もiPhoneを使い、Googleでレストランや地図を検索し、空いた時間にYouTubeやNetflixを観て、Amazonで買い物をする。企業もまたクラウドサービスを利用しているが、その多くはAmazonが支えている。近年はAIの利用も広がり、こうした海外のプラットフォームはもはや生活に欠かせない存在となっている。

しかし、この便利さの裏で、日本経済の新たな課題が浮かび上がっている。それが「デジタル赤字」だ。経産省のデジタル経済レポート(2025)によれば、2024年のデジタル関連収支は▲6.7兆円。日本人が海外のデジタルサービスを利用する額が、外国人による日本発のサービスの利用を大きく上回っていることを意味する。2020年以降この赤字は急拡大しており、2035年には▲18兆円に達するとの推計もある。もはや軽視できる規模ではない。

デジタル赤字拡大の根本的な原因は、日本がデジタル活用の戦略的育成を怠ってきたことにある。しかし近年、生成AIの登場によってデジタル活用の遅れが日本の産業競争力そのものを揺るがす段階に入りつつある。

縁遠いようであるが、私が担当している建機や機械産業にもすでにその兆しが見え始めている。人手不足や技術継承の課題を抱える現場では、操作のアシスト機能、遠隔操作、自律稼働など、オペレーターの作業を支援する機能を備えた製品への需要が急速に高まっている。これらの機能を実現するのはソフトウェアであり、AIの登場によってその存在価値は一変した。AIは大量のデータを学習し、使われるほどに賢くなる。つまり、データが集まる場所でソフトが磨かれ、より優れたソフトがさらに選ばれるという「好循環」が生まれる構造である。

これまで日本企業は「ハードが主でソフトは従」と考える傾向が強かった。しかし、AIの進化はハードとソフトの付加価値の主従関係を逆転させた。日本企業の競争力の源泉はハードの精密な設計と高品質な製造にあったが、今やソフトが売れなければハードも売れない時代である。さらに言えば、製品が使われなければデータが集まらず、学習の好循環にも入れない。製造業の現場にAIをどう組み込み、データをどう活かすかが今後の競争の分かれ目になる。

今まさに日本企業は岐路に立っている。IT化に遅れ、DX化にも遅れた日本企業ではあるが、製造業においては「高品質を理由に選ばれてきた」という大きなアドバンテージを持つ。今後は国産のAIとソフトの開発に注力し、それを製造業の中核に据えることで新たな好循環を生み出すことができるだろう。その先は、世界の製造業に欠かせないデジタルのプラットフォームを日本で育て、デジタル黒字を目指す。これこそが、これからの日本の産業を導く羅針盤となる。

【運用調査部 トレーダー兼アナリスト 新野 栄一】

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