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2026年。世界は今、分断と不確実性の中で、新しい秩序を模索し始めている。

激動する世界を前にして、「停滞の時代」という言葉に、私たち日本人はどこか慣れてしまっていないだろうか。人口減少、地方の過疎化、労働力不足。積み重なる不安の中で、この国の熱量は確実に薄れている。

だが、未来は悲観の延長線上で決まるものではない。

世界はこれから人口が増え、価値の重心は移動していく。その変化の中で、より重みを増す産業がある。鍵となる産業の一つが「食」だ。

食はもはや単なる消費財ではない。国家の命運を左右する戦略資源へと変貌していくだろう。食料を確保できる国が強くなる。豊かな水を持つ国が、次の時代を制する。食とは、土地と水の集積である。

日本は極めて特異な地形を持つ国だ。急峻な山々に降る雨。水を蓄える森林。澄んだ水を平野へと運ぶ、短く急な河川。この構造は世界でも稀であり、テクノロジーをもってしても再現できない。

日本の水は、「量」ではなく「質」で価値を持つ。安定したミネラルバランスと微生物の多様性。この水が、独自の食文化と発酵を育て、世界が羨む「健康と長寿」という社会的価値を形づくってきた。

さらに日本列島は南北に長く、一国で亜熱帯から寒冷地までを内包する。季節のはっきりした移ろいは、天然の実験場として、多様な作物と食文化を育んできた。

土地、水、季節

これらはAIでは生成できない。技術で代替することはできても、同じ歴史と蓄積を後から用意することはできない。この条件こそが、日本の産業の土台である。

だからこそ、農業の定義を変える必要がある。規制と保護の名のもとで守られてきた一次産業から、世界へ打って出る戦略的輸出産業へ。さらに、知的産業へと再設計する。

たとえば日本では、高齢化とともに、言葉にも記録にも残らないまま失われつつある熟練農家の「勘」を、AIで学習し、継承する。耕作放棄地は高付加価値の農地へと転換され、品質と信用を基準とする輸出規格が、現実の競争力として形になる。

食糧自給率の低さは国家課題だ。だが同時に、伸び代でもある。日本は量で競う国ではない。品質と信頼で選ばれる国である。

そして産業は、掛け算で立ち上がる。食にツーリズムを重ね、健康という時間軸を加える。体験は記憶となり、再訪を生む。

地方は、衰退の象徴から、世界に誇れる価値創出の拠点へと反転する。

農業、食、健康、長寿。

これらはすべて、日本が本来持っている力だ。

以上は、一つの可能性にすぎない。日本は未だ経済大国であり、農業だけで再興できるほど単純ではない。しかし発想を転換し、日本の強みを活かし、世界に打って出る産業をいくつも生み出していく。この視点こそが重要だ。

そうした未来の可能性に資本を投じていくこと。これこそが、長期投資の本質である。日々の株価や一年の運用成績に一喜一憂することではない。社会を変え、新しい時代を牽引する企業に、資本を託すという選択だ。

その決断は、時間をかけて大きなリターンとなり、やがて投資家自身へと環流する未来へとつながっていく。

日本には、そのための条件が、この大地と水の中に眠っている。

【取締役副社長 熊谷 幹樹】

 


 

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