Sawakami Asset Management Inc.

CONTENTS
# タグリスト

2019年6月「ニール・ウッドフォード氏のファンドが解約停止」という英フィナンシャルタイムズ紙の見出しが私の目に留まりました。彼が運用していた投信である“Woodford Equity Income Fund”は、毎営業日ごとに顧客がファンドを自由に換金できる仕組みだったため、解約停止は大ニュースとなりました。

欧米での投信の解約停止は、流動性が低い不動産ファンドや不良債権ファンドなどを中心にリーマンショック時には頻繁に起こりましたが、2019年当時は金融危機も遠い昔の出来事になっていました。そのため、グローバル株式に投資が約束されていたインカムファンドが急に解約停止になったというニュースは非常に衝撃的でした。このニュースが筆者の印象に強く残ったのは、前職でイギリスに勤務していた際に取引相手から「なぜウッドフォード氏の旗艦ファンドに投資せず、自社で英国株式に直接投資しているのか?」と皮肉った質問を受けたからでした。それほどまでに、彼の運用していたファンドの信頼は絶大なものだったことを思い出します。

 

成り立ち

ニール・ウッドフォード氏は、1981年に英エクセター大学卒業後、金融機関を2社経験してから大手運用会社であるインベスコに入社しています。インベスコではファンドを運用し、長期的に素晴らしい実績をあげています。多くのインカムファンドは毎月の配当金があるため、退職後の月々の年金収入のプラスアルファを目当てに購入する方が主な顧客となります。つまり比較的リスク許容度が低い層に支持されていたファンドと言えます。Invesco Perpetual High Incomeの運用成績は非常に優秀で、ベンチマークと比べて2.4倍の成長率を残しています。大きな要因としては、ITバブルと金融危機において大きな下落を回避したこと、見放されていた、たばこ産業や医療業界の可能性を見出したことなどで評価されました。全盛期には総額約5兆円を運用しており、「お金を稼ぐのをやめられない男」と言われました。

 

独立

2014年にインベスコを退職したウッドフォード氏は、自身の会社を設立。その後、オープンエンドファンドを立ち上げました。同ファンドは順調に純資産も増え一時は約1.5兆円にまで達しました。しかし、2019年3月に英国の某高級紙が、同ファンドがインカムファンドにもかかわらずスタートアップに積極投資しており、ポートフォリオの2割以上がハイリスクマーケットに投資していることを指摘したところ、解約が殺到。解約に対応するため、ウッドフォード氏は流動性が高く容易に売買できる大企業から売却したため、ポートフォリオはさらにスタートアップ中心となってしまいました。

当時のファンドの失敗例としては、Industrial Heat社が挙げられます。熱を出さない原子力発電を達成できるという呼び声高い企業でした。しかし、専門家の指摘でもエビデンスが問題視されていましたが、ファンドは約200億円を投資して、2019年には8割ほど下落しました。

 

教訓(ファンドセールスの失敗や運用方針の実態との乖離)

ウッドフォード氏のファンドの問題を採り上げる際には、ファンドの販売会社であるHargreaves Lansdown(以下、HL社)の責任も指摘しなければいけません。HL社は、英国最大のファンド・プラットフォーム企業であり、現在でも約160万人が約1200億英ポンドを運用しています。HL社では、調査部長であったマーク・ダンピエール氏が主導して選択していた50本の「買い推奨ファンドリスト」がありました。ダンピエール氏はウッドフォード氏と25年もの付き合いがあり、ウッドフォード氏がインベスコに勤めていた時代からフォローしており、同氏が運用を担当することになった新設ファンドはHL社の買い推奨リストに即時投入。ウッドフォード氏が運用するファンドは非適切性が様々指摘されていたにもかかわらず、過去の業績に捉われ過ぎて新しい情報に目を向けなかったため、ファンドの解約停止寸前までリストから排除しなかったことが後に批判されました。また、この買い推奨リストに入っているファンドを購入する顧客に対しては、信託報酬が割り引かれるというインセンティブが働いていました。HL社のプラットフォームでは、特定の推奨ファンドに顧客を集めることで業界最大の信託報酬の割引を達成して、さらに顧客を獲得するという手法を取っていました。

日本でも、今後インフレ局面や年金対応として投信の重要性が増すと考えます。さらにNISAの普及拡大など投信の成長性が期待されております。そして、一般家庭での投信の保有が増すにつれて業界が果たすべく社会的意義も拡大します。このエピソードでの失敗の要因としては、ファンド・プラットフォーム会社の不適切なアドバイス、インカムファンドでありながら未上場株等への投資などが挙げられます。

 

さわかみファンド

これらに対してさわかみファンドは、創業時より20年以上直接販売の体制をとっており、他の販売会社が信託報酬を割り引くことはございません。さらに、運用方針が確固としており「本格的な長期投資で世の中をおもしろくしていこう」の理念は変わっておりません。例えば、投資させていただいている企業の一つであるヤクルト本社は、新型コロナの影響によりストレスや体調が悪化した状態に対して、このような症状が改善するヤクルト史上最高の乳酸菌密度の「Y1000」を開発。また、伊藤園は茶産地育成事業を通じて、農業の後継者不足問題や耕作放棄地の増加を解消する努力をしています。このように「本業で社会課題を解決する」企業に引き続き投資していく運用方針です。また、おかげさまで純資産3000億円以上になりましたが、当社はファンド1本のみで勝負しており、複数ファンドが存在することによる利益相反の取引は不可能です。

これからも投資業界では様々な事象が起こるかもしれませんが(最近では、高リスクの「仕組み債」を銀行などが不適切に販売していたことを金融庁が指摘しております)創業時の運用方針から外れることなく、新しい情報も吸収しながらしっかりと皆さまのさわかみファンドをご提供していきたいと思います。

【アナリスト 大岩 賢】

関連記事
RELATED

「コラム羅針盤」の他の記事
OTHER