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はじめに

今回のタイ出張では、投資先企業である日本精工株式会社(NSK)やオーエスジー株式会社(OSG)の工場、タイの港で最も大きいレムチャバン港の見学、日系のドラッグストア業者との意見交換を通じて、製造業だけでなく物流やタイ人の働き方について多角的に理解を深めることができました。
 
物価の面では、輸入品の高さと現地商品の手頃さが際立ち、バンコクの中心と周辺地域の収入格差が市民生活に大きな影響を与えていることが窺えました。製造業者との意見交換では、リニアガイドやベアリングの受注動向から、タイの実体経済の景況感を推し量る営業現場のコツを伺うことができました。また消費者動向としては、日本製品の売れ行きが韓国や中国のブランドに押されているという声も聞けました。
 
 

日本精工株式会社の面談と工場見学


トランスミッションとハブユニット用ベアリングの精密な加工と組み立て工程を見学しました。各工程終了後の品質検査のノウハウが印象的で、この徹底した品質管理がNSK 製品の信頼性の高さを保証していることを確認しました。
 
同社タイ法人の社長と私たちとの対話の中で、顧客との信頼関係を築く際に、過去の品質データや故障原因の分析をどのように活用していくかの議論を行いました。同社は豊富なデータを蓄積していて、様々な活用方法を模索しています。ビッグデータをどう料理してアジア顧客へのソリューション提案に繋げていくのか、私どももワクワクしながら応援していきます。
 
 

オーエスジー株式会社の面談と見学


工具業界の現状とタイ市場、インド市場の興隆性について、実体経済の前線におけるお話を伺うことで、将来への成長期待がより明確になりました。ここでも鍵となるポイントは、これまで蓄積してきた製品のデータが顧客の信頼につながるということです。切削工具となると多くの製品が製造され、1個1個の製造履歴を管理することはかなり大変です。しかし同社は既に徹底した管理ができており、全社あげての品質管理への意識の高さを確認しました。
 
また、工場現場の説明で感じた重要なノウハウがコスト感覚に優れた設備の調達です。むやみに高いスペックの機械や部品を導入するのではなく、製品製造のために本当に必要な機能を過不足なく判断して、コスト最適な設備に仕上げるエンジニアリング力の充実を確認しました。これも過去の製造履歴データあればこその賜物です。
 
今後、中古品やリサイクル品の流通も増えていくことを考えれば、製品の製造履歴を管理してこその品質を保証することが、世界の顧客の信頼を勝ち取る必要条件となっていきます。
 
今回見学した2つの工場でその取り組みを確認できましたので、信頼して応援投資を続けたいと思います。
 
 

日系ドラッグストア現地法人との意見交換

タイでの給与体系に関する貴重な知見を得ることができました。タイでは、賃金体系がキャリア組と非キャリア組に分かれており、これがタイでの労働環境の特徴を反映していることが理解できました。キャリア組は給与を増やすために転職を繰り返すことが多いですが、スキルを習得するためには一定期間の昇給がなくてもかなり勤勉に働かれるようです。仕事を家に持ち帰って完遂するのも違和感がない状況。同社は求めるスキルを習得したキャリア組の社員に対しては、できるだけ長く在籍して欲しいため、メリハリのある評価体系で給料に大きな差を設けていました。一例として、入社5年程で250%の給料アップを果たした社員の例が示されました。
 
タイ出張による現地での体験は、デジタルでは得られない貴重な知見をもたらしてくれました。直接の対話と現場視察を通じて、タイの製造業と労働市場など実体経済を体感することができました。この経験は私たちの投資先企業との関係強化に寄与し、新たな発見にも繋がると確信しています。今回のタイ出張での学びを広く、深く、遠く思索し、今後の長期投資のアイデア出しの新たなスパイスとして取り入れたいと思います。
 
 
【運用調査部 アナリスト 森實 潤】

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