Sawakami Asset Management Inc.

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▲運用調査部の海外調査の模様が、地元情報発信紙「Bændablaðið」に掲載されました。左から、前野(運用調査部 トレーダー兼アナリスト)、黒島(取締役最高投資責任者兼運用調査部長)、鈴木(運用調査部 アナリスト)

第25期の運用調査部の施策として質の高い一次情報に触れる機会を増やし、「広く、深く、遠く」「推と論」の将来予測の力を錬成しています。具体的に言えば、私もふくめ知的他流試合にどんどん挑んで地頭を鍛えています。その一環として、当部の鈴木、前野とともにオランダ、アイスランドに調査に行ってきました。それぞれの視点から報告させていただきます。私にとりましては、アイスランドで受けた取材にて長期投資の思いを語り、その記事が同国新聞に掲載された点は成果でした。一時、現地オンラインで最も読まれた記事になったとのことで、当社の長期投資の哲学が海外でも理解されることを確信しました。

取締役最高投資責任者 兼 運用調査部長 黒島 光昭

 


 

海外調査/建設機械編【オランダ】

長期投資だより9月号に掲載した㈱技研製作所の現地事務所訪問ならびに現場確認は、私にとって今回の主目的の一つでした。日本建設機械工業会の2022年度建設機械出荷金額統計によれば、内需の約1.1兆円に対し、外需は約2.4兆円と倍以上の差となっています。更にこの外需が内需を上回る傾向は2003年から拡大傾向にあります。数字からわかる通り、日本の建設機械の多くはずいぶん以前から海外で活躍しているのです。

「アムステルダム運河」の護岸改修工事は技術の賜物

運河の護岸は建設後100年以上が経過しており、近年の気候変動による豪雨災害などにより崩壊する被害が発生しているため、老朽化対策が喫緊の課題となっています。ただそれらの多くが歴史的な建造物が立ち並ぶ市内中心部に面しており、人々で賑わっている場所にあります。実際に現地を訪れて「この環境下で工事すること自体がすごく難しい」と感じました。該当する場所を区画すれば工事エリアは確保できますが、生活圏への影響を考慮するとなると範囲は最小限にとどめる必要があり、速やかな工事が求められます。更に必要となる工事は杭打ちです。施工現場から10mも離れていないところに歴史的建造物が立ち並び、すぐそばには並木道があります。住民が大切にしている並木はなるべく残すよう要望があったとのことで、景観を何より重視しているそうです。そして運河は船の往来があり、おのずと工事エリアは限定されます。このような制限の中、同社とその関係会社は208mの試験施工を無事やり遂げたのです。

▲アムステルダム運河での実証施工の様子①

▲アムステルダム運河での実証施工の様子②

護岸の改修工事は元々地場の工事会社によって施工が行われていたのですが、様々な制約があり、従来の工法では多くの壁が立ちはだかり遅々として進んでいませんでした。そこでオランダ・アムステルダム市が世界に公募し、厳正な審査を経て同社グループが選ばれたのです。実際の工事では重機や機材、資材等は全て水路からの搬入であったとのことで、橋の高さなどの制約も同社が選ばれた要因の一つだと思います。同社製品は既に設置された完成杭から反力を得ているため、製品本体の自重が必要なく、機械の軽量・コンパクト化が図れているのです。更に「静音・少振動で特徴的なのは打ち込んだ杭の上で建機が作業する」ため、省スペースで周辺環境への影響が少ないことはとても大きな利点です。実施工では208mの施工範囲に杭径508㎜の鋼管杭13m~25mを271本打ち込んだとのことで、この量だけでもスケールの大きさが伝わるのではないでしょうか。杭打ち後は元々使われていたレンガや笠コンクリートをできる限りリユースして仕上げたそうです。完成後の施工現場は、はた目にはわからないほど元の景観を維持しつつ綺麗に仕上げられていました。古き良きものと現代技術の融合で世界遺産がこれまで以上に頑丈に守られ、その技術の高さを再認識しました。アムステルダム市の管轄する護岸は600㎞以上あり、200㎞にわたる範囲で対策が必要とされているようなので同社製品の更なる活躍を期待しています。

▲景観維持のため、元々使われていたレンガや笠コンクリートをできる限りリユースして仕上げられた護岸

世界各所でこれからも日本製の建機が活躍する

海外調査は多岐にわたっていたこともあり、時間の制約がある中でも、アムステルダム中央駅のすぐそばにある工事現場で㈱竹内製作所のショベルカーを確認することができました。また現地では見ることがかないませんでしたが、車を走らせた中で㈱タダノのクレーン車が活躍したと思われる陸上・洋上風力発電設備を数多く見ました。めまぐるしく変わり続ける社会では環境対応やDXなど求められる課題も変化し続けています。先行き不透明な世の中ですが、日本製の建機はその原動力をはじめ、耐久性や安全配慮など進化し続けているからこそ、引き続き世界各所で活躍すると改めて確信しました。建築・土木をはじめ、インフラ、エネルギー、資源開発などいい社会をつくっていくのに建機は欠かすことのできない製品なので、先行きを見定めながら応援を続けていきます。

【運用調査部 アナリスト 鈴木 潤】

 


 

海外調査/再生可能エネルギー編【アイスランド】

地熱発電約3割、水力発電約7割(一部風力発電もあります)と、ほぼ100%が再生可能エネルギーで賄われている国アイスランド。火山が多い島国であるという共通点から、日本における地熱発電普及のキーファクターを探るべくレイキャビク郊外にあるアイスランド最大級の地熱発電所2社を訪問しました。

地熱発電所(筆者撮影)

アイスランドの地熱エネルギーの基礎

アイスランドは世界で唯一、海嶺が地上で見ることができる場所として知られています。海嶺とは新しいプレートが生まれる場所です。アイスランドの海嶺ではユーラシアプレートと北米プレートが誕生する場所であり、東西に毎年2cm離れ、やがて日本近海あたりで沈み込みます。これらのプレートの境界にあたる場所には火山が多く地熱資源も豊富にあり地熱発電に活かされています。

最大露天温泉施設ブルーラグーン

日本の技術力が活かされているアイスランドの地熱発電

地熱資源が豊富なアイスランドでは、地熱地帯を掘削し地中から発生する蒸気でタービンを回して発電を行っています。驚くことに、地面を2km掘るだけでマグマだまりに到達するとのことで、そこから大量の水蒸気と熱湯を得られます。地熱の蒸気には鉄などを錆びさせる腐食成分が多く含まれていることや、24時間フル稼働という過酷な環境を耐え抜く高度な技術を持ち合わせた設備が必要となります。その約7割に日本製のタービンが採用されており、日本の高い技術力の証明に繋がります。

地熱発電所を中心としたリソースを提供

地熱は発電だけではなく地熱発電所を中心に様々なところで活用されています。地下熱水の排水が溜まっていたところを整備してできた世界最大露天温泉施設ブルーラグーン。温泉の他にも蒸気を利用した暖房や融雪、温室農業、魚の養殖など様々なところに活用されています。

最後に

現在、日本では地熱発電の普及が極わずかであり、アイスランドには遠く及びません。しかし日本はアイスランドを上回る世界3位の地熱資源保有国であり、タービン等の地熱発電に必要な高い技術力も持ち合わせています。アイスランドにおける日本の技術力の経験が、日本の地熱開発に活かされる日が来るのもそう遠くないように感じました。

 


 

海外調査/水産編【オランダ・アイスランド】

水産事業の調査で訪れたのはユルク(オランダ)とウェストマン諸島(アイスランド)。目的は大きく分けて2つあり、国内水産企業の調査とTAC(漁獲可能量)制度によって水産資源の持続可能利用に成功している欧州の水産事業を調査してきました。

ユルクでの日本企業の挑戦

美しい海に囲まれた日本。本来は水産資源にも恵まれているはずですが、気候変動や乱獲等により枯渇し始めております。また世界を見ると、人口増加に伴うたんぱく源の需要拡大により水産資源の争奪戦が繰り広げられています。このような状況下で、今回訪問させていただいた企業は「水産資源の確保と安定供給」という使命を果たすべく海外で挑戦をしていました。訪問先企業は国籍や文化、歴史が異なる海外企業との人財交流を活かし10年の歳月をかけ地道に基盤を作り上げ、川上(産地)から川下(消費者)を広くカバーするサプライチェーンを構築していました。まさに、着実に使命を果たしていると肌で感じました。

漁業を中心として経済が回るウェストマン諸島

アイスランドは漁業管理手法においていち早くTAC(漁獲可能量)の設定とIQ(個別漁獲割当)を導入し、持続可能な漁業に成功している国であり、世界からも優良事例として認識されています。現地スタッフによると今回訪れたウェストマン諸島はアイスランドの人口の1%の小さな漁師町ですが、GDPの15%(水産業だけでなく、水産から派生したサービス等も含む)を生み出しており、TACを基に行っている持続可能な漁業で一つの島全体が豊かな生活を送っておりました。

▲ユルクで食べたKibbelingなど

▲ウェストマン諸島で食べた真鱈

最後に

紙面の関係でお伝えできる内容に限りがありましたが、最後に今回の水産事業視察で感じたことをお伝えします。それは水産を“資源”として捉えることの重要性です。人口増加によって引き起こされるであろうプロテインクライシス。そしてそのたんぱく源として有効になるのが水産資源である魚介類です。しかし、ユルクで食べだしたら止まらなくなったKibbeling(鱈の唐揚げ)をはじめとする現地の魚料理や、ウェストマン諸島の現地企業が釣りあげた、今までに口にしたことのないぷりぷりした真鱈を食べた時に、プロテインクライシスとは単にたんぱく質が不足するのではなく、言い換えれば「おいしいものが食べられなくなる」ということではないかという考えにたどり着きました。日本は世界三大漁場の一つであり、魚の食文化など世界に誇れるものが多々あります。日本も水産を資源として捉え、持続可能な漁業を確立することで、おいしいもの(さかな)を持続的に食べることができなくなるという課題(=プロテインクライシス)において将来再び世界に貢献できると感じました。引き続き「広く、深く、遠く」水産ビジネスを調査していきます。

【運用調査部 トレーダー兼アナリスト 前野 宏明】

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