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2014.5_column1.jpgこの8年間、国内外問わず多くの運用会社を訪問してきた。互いの運用哲学や経済・相場の見通しなどの共有が表向きの目的だが、あわせて私は先方の運用担当者に必ず伺うことがある。それは、運用哲学を実行するための土壌と体制についてだ。
 
実行するための土壌
 
運用とは受益者の資産を増やす(減らさない)ことを目的とする。その増やし方(減らさない方法)は運用会社、時にファンドマネージャー(以下、FM)毎に哲学があり、受益者はその哲学を理解し資産運用を委託する。実行するための土壌とは、そのような哲学を実行しうる環境にあるか、ということに他ならない。
 
例えば、年金の代わり(または自分の銀行口座に毎月現金が振り込まれることで安心感を得る)を目的に運用を考える受益者には、再投資型の長期運用商品よりも毎月分配型のファンドを薦めるべきだろう。そのようなファンドは分配ありきの運用を行うため、分配に適する投資先を探す必要がある。また、回転を利かせ日々の利益を積み上げていくことを強みとするファンドの場合、その方針を理解する受益者と、その運用手法に耐えうる市場の流動性が必要となる。
 
どのような運用哲学であれ、受益者と投資先という双方の土壌が整っていない限り効果は薄まる。加えて、土壌の規模と実際の運用資産額が合致していることも重要なことだ。
 
昨今は土壌を見ながら商品設計をするところが多いように見受けられる。「こんな商品が売れそうだ」「では相応しいFMを探し採用しよう」…心変わりの激しい土壌ゆえ、その土質が変わる度にこのような会話が繰り返されているように思う。
 
実行するための体制
 
整った土壌だけでなく、哲学を実行しうる確固たる運用体制も必要だ。しかしこの体制、必ずしも正解があるわけではなく、運用会社の風土などにも依存する。運用会社は運用方針や担当者数、受益者分類(個人・企業)、そして運用資産額など様々な要素で異なる体制を敷いており、且つそれは変化する場合もある。
 
例えば、頂点のチーフFMがセクター(現金含む)の投資比率を決定し、ジュニアFMが与えられたポジションの中で担当セクターの銘柄選定及び売買を判断する制度。あるいは、一本のファンドに独自の考えを持つ複数のFMを置き、あらかじめ選定された銘柄群(ユニバース)を自由に売買する制度。ファンド内で同一銘柄の売りと買いが重なった場合は内部相殺し、FM毎の意向を反映し且つ個々のパフォーマンスが計測できるというわけだ。更には、アセットアロケーターが決めた投資比率に従って国内株・債券、外国株・債券など資産毎のFMがその下の運用を担う制度。その他、大型・小型株に分けて運用するところもあり各社様々だ。
 
以上を例に、多くの運用会社にその体制を伺った経験は「さわかみファンド」の将来構想に非常に役立った。現時点では、アセットアロケーションを最大の武器とし応援投資を公言する「さわかみファンド」においては、資産毎にFMを置くスタイルが最も相応しいと考えているのだが、今はまだ答えを出していない。
 
運用会社が抱える悩み
 
多くの運用会社をヒヤリングした結果、先述した土壌と体制以外に共通する悩みを抱えていることがわかった。運用パフォーマンスに影響する要素とも言える点である。
 
各社の共通点…それは単純にして最も悩ましい点、つまりチームワークの醸成である。アナリスト含む運用メンバー全員が同じ運用哲学の下でいかに連携できるか、実はこの点が各社共通して苦労しているように感じた。アナリストが良いアイデアを持っていても、それがFMに伝わらない限り無価値となる。同様にトレーダーがFMの真意を理解していないと、対峙するマーケットの中で最優先事項を見失うことも有り得る。何よりチーム内で仲間を貶めるような悪い競争が起こると、それこそ誰のための運用かが担保できない。
 
安易な考えではチーム内コミュニケーションの活性化が解決の道となろう。しかしながら最終形態は、無言でも理解しあえる関係が理想だ。日々の建設的な議論を経て互いの思考を理解しあい、必要な時に適切なアクションを能動的に起こせるような信頼関係だ。些細な意見の相違はあれ、社内コンセンサスを持ち進めていければ「誰のための運用か」という目的にチームが一丸となれる。そのためには、哲学や方針の理解を拒絶する人間を外すことも時には必要である。日本と海外では報酬や雇用事情が違い、一概にどちらが有利とは言い難い。しかし受益者からみれば事情など無関係、パフォーマンスを積み上げられるファンドが常に善となる。チームワークの醸成はマーケットに依存しないため、各社各人の努力でいくらでも改善できる。
 
運用パフォーマンス向上へ
 
様々な要素があるが、まとめてみると次の通りである。
①哲学と市場の適合性
②哲学と受益者の要望の合致
③哲学と運用資産額の適合性
④哲学を実行する持続的体制
⑤哲学を実行するチームワーク
 
①②③は商品設計自体であるため動き出したら修正し難い。但し②は運用会社の努力次第で時間をかけ寄り添うことが可能。③は設定時に上限を設けてしまう、または額に縛られない哲学を持つ、それとも額に応じて手法を変えていけばよい。しかし、手法の変更が哲学を否定してしまう危険性を孕んでおり、その場合は②の破壊にも繋がりかねない。
 
④⑤は内部努力でいかようにも変えられるし、時代に応じて変更すべきことだ。①②③ほどの影響はないが、この④⑤の改善はボディブローのように効いてくるだろう。そして至極当然のことだが、⑥「哲学を実行する運用・調査能力」も忘れてはならない。
 
それ以外の要素の存在は否定しないが、私の感覚では①~⑥で十分に運用パフォーマンスを説明できると思う。では、「さわかみファンド」を①~⑥に当てはめるとどうなるだろうか。
 
①日本の眠れる資産と投資先企業のグローバル成長を考慮し、且つ長期投資の農耕的な哲学は時代を超えて市場と適合する。
②受益者との信頼関係は日本一と自負。受益者からも頷いていただけるよう努力を継続。
③長期投資・運用だと20兆円くらいまでは問題ない。
④特定人物への依存リスク有り、体制は整っていると言い難い。
⑤満足しうる水準ではない。まだまだ成長できる。
 
恥ずかしい話ではあるが、④~⑥という内部事情が成熟していない。逆説的には④~⑥の改善で、長期投資・運用の力を更に発揮できると信じている。
 
【代表取締役社長 澤上 龍】

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