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 アベノミクスが始まり3年半が経とうとしています。デフレの脱却を目指し、3本の矢というフレーズが日本だけでなく世界中を駆け巡りました。
 『ついに日本が変わる』という期待感は外国人の方が強かったと感じました。実際、2012年末に欧州で行われた機関投資家のカンファレンスにおいて、数多くの投資家から日本の経済や日本企業の競争力について詳細に質問を受けたことを記憶しています。その後は皆さんもご存じの通り、日本の株式市場は活況を取り戻しました。加えて2013年の秋には安倍首相が自らNYで日本株を売り込むスピーチをしたことが大きくとりあげられました。しかし、現実的に実行されていると言えるのは金融政策の1本だけと言ってよい状況です。これまでの実績、国家財政の現状を考えると、第2の矢である財政出動については実行の必要性を感じません。それは先日のサミットでも各国首脳の反応を見ればわかるとおり根本的な解決には寄与しないからです。第3の矢である成長戦略、すなわち成長に向けて弊害となっている様々な規制緩和や税と社会保障の一体改革といった構造改革は一向に進んでいません。もし日本のデフレの原因が、高齢化による社会保障費負担の増加による可処分所得の減少と年金の将来不安から貯蓄を選ぶことによる需要の減少、そもそもの人口減少による需要減少であるならば第3の矢こそもっとも大切な矢である筈です。
 

見えない負担の増加

 アベノミクスの効果として、企業の好決算にともなう賃上げが取り上げられます。実際に厚生労働省の資料などから、毎年2%ほど賃金上昇がこの3年間続いています。しかし日本の景気が盛り上がらず、物価も日銀が想定したようには伸びていません。その理由の一つに実質的可処分所得の減少があげられます。中でも保険料や税金など、見えない負担の増加がジリジリと上がってきています。
 総務省家計調査によると、1999年から2014年の間に可処分所得は6%も低下しています。実質可処分所得が年間400万円(年収530万円)の家庭では、月2万円負担が大きくなっているということです。また、企業の会社員が入る健康保険組合連合会の資料では、2007年度から2016年度にかけて平均保険料が1.8%増えていることが分かります。額に直すと一人当たり9万5千円の増加となります。現在の国家財政を考えれば、今後も保険料率の上昇は続くでしょうし、賃金の上昇を続ければ企業の負担は大きくなり、結果的に賃金上昇を抑えたり雇用自体に慎重になったりしてしまいます。
 そもそも人口が減少していく状況では、既存のビジネスは需要の拡大は見込みにくく投資も起こりにくい。雇用も投資も起きにくければ経済は活性化しない。こういった流れにメスをいれなければ、見えない負担に知らぬ間に浸食されてしまいます。
 

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 予想通り、歴史的な円高局面が是正されてもJカーブ効果は起きませんでした(2014年9月号参照)。それが国内景気を浮揚させると期待したエコノミストもいましたが、実態は違いました。日本の産業構造は変化し、輸出型と言われる企業が為替の変動、国内需要の減少と拡大する海外需要への対応として現地化を進めてきた結果です。一時は世界を席巻した電機産業もグローバル化の荒波にもまれ苦しい状況です。
 
 

ものづくり解決立国に

 では日本が生き残るには何が必要なのか。一般的にはサービス業の生産性の向上が重要だという議論がなされます。もちろんそこに疑いの余地はありませんが、日本の文化としてサービスは無料であるという意識を変える必要があります。海外に出張や旅行に行くとチップが必要になり、日本と比較し質と価格の両面で日本の良さを再確認します。日本に多くの外国人客が訪れ、買い物だけでなく最近はサービスに感動しリピートしている方が増えるのは当然と言えるでしょう。しかしこれらのサービスの欠点は輸出が出来ないことです。そう考えると、やはり輸出である程度しっかり稼ぐことが必要です。いかに付加価値の高い部品やモジュール、それらを作る装置を製造販売しアフターサービスでも稼ぐかです。加えてアイディアで勝負するのではなく、それを実現する術でも稼ぐのです。iPhoneもdysonのドライヤーも、アイディアを実現する為には日本の技術が必要です。既に持つ技術力、高い品質と生産性に加えて、モノづくりの問題解決において、なくてはならない存在となればこの国に未来はあるはずです。
 
【取締役最高投資責任者 草刈 貴弘】

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