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図1:大気中の二酸化炭素濃度(日本国内)

 

夏が来れば思い出す

夏に否応なく思い出すのは、童謡『夏の思い出』に出てくる尾瀬や水芭蕉ではなく、地球温暖化という世界共通の問題です。日本だけでも夏の大雨及び短時間豪雨の発生頻度が増加し、真夏日、猛暑日及び熱帯夜の日数は年々増加して、災害や熱中症などで私たちに多大な影響を及ぼしています。こうした状況を招いた地球温暖化は、産業革命以降、人間の活動に伴い大気中の温室効果ガス(GHG)濃度が高まり続け、地球が熱放射をしにくくなったことに起因していると考えられています。グラフ(図1)は過去30年の日本の観測点におけるCO2濃度です。地球温暖化を意識するだけでなく、着実な対応・行動が必要になっています。

 

図2:2019年度の先進各国の再エネ比率

パリ協定とその後の対応

2016年11月4日に発効されたパリ協定は、歴史上初めて、全ての国がGHGの削減に取り組むことを約束した枠組みです。長期的な目標として「世界の平均気温上昇を産業革命前から2度以内に抑える」という「2度目標」が設定され、「1.5度に抑える努力の追求」も加えられました。協定の運営は5年ごとに全ての国が実施状況を報告し、レビューを受け、削減目標を提出・更新します。否が応でもGHG削減に前傾姿勢で臨むほかありません。
パリ協定後の発電における再生可能エネルギー比率(以後、再エネ比率)を欧州と日本で比べてみたところ、2017年度の再エネ比率が欧州は30%、日本は16%でした。その後この比率がどうなったかというと、欧州では2020年度に38.1%、日本は2019年度の数値ですが18%でした。其々様々な事情があるとは思いますが、再エネ比率を伸ばそうとする姿勢に明らかに差が出ており、日本の対応が残念でなりません。図2は2019年度の先進各国の再エネ比率です。米国はこれからの巻き返しが予想されるため、このままでは日本が置いてきぼりになり兼ねないと感じます(カナダが高水準なのは国土を利用した水力発電が59%もあるためです)。

グリーン投資

環境に配慮した経済活動への投資をグリーン投資と呼びます。昨年までに先進各国が表明している政策では、米国が「環境インフラに4年間で約200兆円」を、EUは「2021~27年の約235兆円の中期予算案の3割強を気候変動対策」に、隣国の韓国では「2025年までの5年間で約7兆円」を投じるというものがあります。日本はGHG削減につながる生産設備への投資に過去最高水準の最大10%の税額控除を決め、研究開発支援として2兆円の基金を創設しました。この予算だけをみても日本の本気度が見えません。日本企業が持つ脱炭素・GHG技術は他国企業に劣っているとは思えません。世界的な課題に企業が取り組む時に、国としてのサポートをもっと発動してほしいと思います。
資本市場では環境に配慮したESG投資に向かう資金は増え続け、世界でおよそ3,500兆円超、世界運用資産の3分の1はESG投資です。ESGに積極的な企業を支持する投資家が増えている証拠です。「今だけ、金だけ、自分だけ」の刹那的・独善的な満足感の追求ではなく、地球にとっても、そこで生活する地球号乗組員にとっても優しい経済成長が望まれるようになってきたのです。

どうする日本、私たち

日本の2021年度予算は106.6兆円で過去最大です。3割強を占めている社会保障費は今後も増加するものと思われます。脱炭素社会に欧米のような二桁兆円の年間予算を割いていられないと国は言いたくなるかもしれません。
個人的な発想ですが、昨今のESG投資人気やグリーンボンド(環境債)人気を踏まえ、国債や政府保証の公共債をグリーンボンド(以下、GB)として発行して、GHG削減対策に振り向ける資金を得てはどうかと考えます。GBの金利は通常債券よりも低くなる「グリーンプレミアム(発行体に有利)」が付きやすいですが、発行時は比較的低い金利でスタートさせ、その後、一定年数後にGHG削減の成果が設定目標を超えてきた場合、翌年の金利に設定金利の上乗せをしていくというものはどうでしょう。発行時の金利をボトムとして維持し、成果が現れてくれば金利が上昇していく仕組みです。GBの購入者は主にそこで活動・生活する人々とすれば、法人・住民にもGHG削減努力のインセンティブになります。日本国内あらゆる地域でこうしたGBが発行できれば、日本全体の本気度が高まるのではないでしょうか。
日銀発表の資金循環統計(2021年第一四半期)では、家計に眠る現金・預金額は1,056兆円です。その1%が動いただけでも欧米の環境予算に伍していけます。副産物として「貯蓄から投資へ」の行動促進にもなります。このようなGBが起債されたら、あなたは購入されますか?

【アナリスト 大澤 眞智子】

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