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月に一回ほど、自宅のある東京の混雑したエリアを離れ、静岡県御殿場市で週末を過ごしています。街のほぼどこからでも美しい富士山を眺めることができる御殿場は、賑やかな新宿の人混みから離れてリラックスできる素晴らしい場所です。東京に住んでいる人の中には御殿場を「田舎」と呼ぶ人もいるでしょう。しかし、フランス人の私にとっては、牛が見えず、いくつかの店がある場所は本当の田舎とは言えません! 実際に見てみると御殿場の人口は約84,000人(2024年時点)です。このように人口からは“中規模都市”ともいえる御殿場ですが、それにしても歩いているとなぜこんなに多くのドラッグストア(以下DS)があるのかといつも不思議に思います。実際、御殿場にはネットで検索するだけでも17店舗ものDSがあり、これは住民約5,000人あたり1店舗に相当します。本当に御殿場にはこれほど多くのDSが必要なのでしょうか?

 

全国で急拡大するドラッグストア

過去10年間で、日本のDS業界は小売業全体と比べても好調な成長を遂げ、2024年には売上高8.5兆円に達しました。人口減少が進む日本においても、DS業界はこうした影響を比較的受けにくい業界です。高齢化による、医薬品や健康志向の栄養食品の需要の高まりや、スーパーの減少が進む中、DSが医薬品だけでなく食品や日用品も幅広く取り揃えた「ワンストップショップ」として、その役割を担っていることがその背景にあります。
グラフ(図1)が示す通り、この10年間のDS業界の急成長を支えたのは、全国各地で積極的に進められた新規出店で2016年からは年間平均700店舗のペースで増えています。注目すべきは、1店舗あたりの年間売上が約4億円で安定しており、新規出店によって既存店の売上が大きく減少していない点です。

▲(図1)ドラッグストア業界の進化

 

ドラッグストアの店舗数は今後も増え続けるのか?

表(図2)には、地域ごとのDS1店舗あたりの人口カバー数と、1人当たりの月間支出額が示されています。この表の一番右の列(1人当たりの月間支出額)が伸び続ける限り、業界の売上も伸びると考えられます。しかし、1人当たりのDSへの支出には限界があるためこの数字が無限に伸びるとは考えにくいです。つまり新規出店は、いずれ既存店舗の売上を奪うだけで新たな需要を生み出さなくなります。これは資本主義の宿命とも言える業界の危機感を生み出しています。これが近年、DS業界の株価が市場全体を下回っている理由の一つだと私は考えています。

▲(図2)地域ごとのDS 1店舗あたりの人口カバー数と、1人当たりの月間支出額

 

ドラッグストア業界の今後の成長戦略

そんな株式市場での評価に係わらず、われわれ長期投資家は社会に必要とされる業種として注目しています。運用会議では、DSが社会で果たす重要な役割や、高齢化社会・地域活性化への貢献について議論しました。DSは実際のニーズに応えているため、DSの時代が終わることはありませんが、資本主義の進化とともに姿を変えていくでしょう。今後、DS業界は統合が進むと予想されます。つまり、国内のチェーン数が減少する一連の合併が起きるでしょう。これにより、ブランド認知度の向上や会員プログラムの統合、サービス品質の向上が期待できます。さらに、医薬品や食品、日用品の仕入れにおける購買力も高まり、利益率の向上につながります。つまり、これまで重視されてきた売上(トップライン)成長から、今後は利益(ボトムライン)改善へと軸足が移ると考えられます。

 

【運用調査部 アナリスト シャルル サルヴァン】

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