本業で社会貢献する 企業を求めて

【海外取材レポート(イタリア)】

第19期の運用報告でもご報告したとおり、今後さわかみファンドが注力していこうとしている考え方の一つにCSV(Creating Shared Value)というものがあります。この考え方は2011年にハーバードビジネススクールのマイケル・ポーター教授が提唱したもので、社会課題の解決を本業で図る企業が結果的に差別化などで競争優位になることで持続的な成長を行うというものです。日本で言えば「三方よし」といったものでしょうか。私たちは長期投資を通じて世の中をおもしろく、良いものにしたいと考えています。それは自分たちの財産が出来ることはもちろん、その過程において世の中が良い方向に進んでいることがとても大切で、それが無ければ短期とか長期という時間軸の話でしかなくなってしまい、結局、投資は奪い合うゼロサムゲームになってしまいます。
また、これまで以上に中小型の企業への投資を増やし、それらの企業がCSVの観点から発展を遂げ結果的に地方経済の活性化に貢献し、グローバル企業へと成長していく過程を共に歩みたいと考えています。例えば、先日企業訪問ツアーで伺った株式会社ブリヂストンは、創業の地である久留米において多大なる貢献をしていることがいたるところで感じられます。企業はもちろん創業者の私財からも、地元に九州医学専門学校(現・久留米大学)の創設支援や市の小中学校に水泳プールを建設寄贈するなどしています。その過程で企業はグローバル企業へと発展し、もはや久留米にとどまらない姿へと成長しています。企業側の努力だけでなく、業界や消費者の嗜好などの影響がありますから、すべての企業がそうなるとは考えていません。ですが、その歴史の過程を楽しみつつ資産づくりができるということに異論は少ないのではないかと思います。

さて、今回は欧州にある売上高700億円(1€=130円換算)ほどの企業に訪問いたしました。イタリアの中部に位置し、近郊にはアッシジ等の世界遺産があり近世までローマ教皇領だったということでキリスト教にとっては巡礼地として知られています。そのような歴史的背景から、小作農家の人々が多く貧しい生活だったそうですが、戦後工業化の波が押し寄せ多くの農民が都市部へ出稼ぎに行ったようです。その結果、農村は働き手がいなくなり苦しい状況になり、出稼ぎに行った人たちも結局は困窮した生活のために人としての尊厳が失われてしまったそうです。この企業の創業者は現在61歳ですが、自らのこのような経験から人としての尊厳を保持しつつも資本主義としても成り立つという理念を掲げ経営しています。雇用を生み、技術者を育てる学校を作り、社員食堂で地元の農産物をふんだんに使い、畑を整備し、図書館やサッカー場や劇場まで作るなど、その夢はその地域を再生させるまでになっています。ある意味、当社が考えていたヴィレッジ計画がそこでは本当になされていたのです。

今回の訪問では、創業者とお会いできるというご縁にも恵まれ、世界で勝負している企業、思いを実現する馬力、多くの人を巻き込む魅力、何よりそこで働く人々の輝く表情を実際に目のあたりにし大きな刺激を受けました。この企業はかなり田舎にあるのですが、手元に持っているスマートフォンで政治的な話やニュースで株価が大きく反応しているのを確認した後、ふと目線をあげた時に自分がとても滑稽に思えました。何故なら眼前にはそんなこととは関係なく、毎日仕事をして食事をし、家族と過ごすという日常があまりにも美しく感じることができ、マーケットではなくここが実体なのだと再確認させられたからです。金融はとても力を持っていますが、それは日々の生活が根底にあるからこそ。この考え方は創業者やその企業の幹部とも共感し、世界で通用するものでした。

日本を含め世界にはまだまだ知らない素晴らしい企業がたくさんあり、新たに生まれています。これからも長期投資で良い世の中づくりを実践するためにも、既存の枠に収まらず高みを目指していきたいと志を新たにした企業訪問でした。

【取締役最高投資責任者 草刈 貴弘】