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リフォームの折り込みチラシを目にすることが増えました。政府の経済財政報告(10年度)に、高齢化社会とリフォーム需要について分析があり、リフォームした施主の7割が50~60代、当時のリフォーム市場は穏やかな減少傾向にあったものの、65歳以上の支出総額は減少せず、構成比率が上昇しています。リフォーム支出は外装と内装が各々4割、残り2割が、給排水管と庭に充てられています。昨年の消費税増税前の駆け込みとは別に、世帯構造の変化による住宅改修の足の長い需要は、今後も続きそうです。その背景としては、内閣府の意識調査で、6割以上の人が退院後の自宅療養を希望し、もし要介護状態になった場合、自宅や子供・家族の家で介護を希望する人が4割を超えていること、政府の地域包括ケアシステムは、25年を目標に住まいを起点に30分の日常生活圏で医療サービスの実現をめざしており、地方自治体が準備を進めていることがあります。25年の在宅介護者数は463万人と予測されており、75歳以上の世帯主の世帯数予測と合わせて、10年後には、総世帯数の1/4程度で浴室やトイレが、ユニバーサルデザイン化されていてもおかしくなさそうです。現在は、手すり、スロープ、入浴補助用具、リフトや立ち座りを補助する腰掛便座などが介護保険制度の対象ですが、家族の日常生活の質を良くする改修ニーズは様々で、潜在需要は大きいといえます。衣食住の「食と住」について、家族介護を前提に、将来性のある市場を探ってみます。
 
「食」では、小売店でケアフードのコーナーをよく見かけるようになりました。日本介護食品協議会が、食べ易さや使い易さで企画統一し、嚥下し易さを基準に、固さや粘度で4区分に表示したレトルト食品、冷凍食品やとろみ調整食品がユニバーサルデザインフードです。同食品の生産額は5年前から倍増、130億円を達成しています。同協会の調査(今年5月実施)では、介護食品が市販されていることを知っている人は、全体の43%です。食事介護が必要な人がいる世帯では四年前の31%から64%に増加しました。家族介護で、手間がかかる手作りから、ケアフードを食卓に取り入れる素地が着実にできつつあるようです。販路別でも、小売・通販用の市販品や病院・施設向の業務用品のどの販路でも販売が伸びています。これを基に単純試算すれば、10年先の25年に、単価200円の介護食品が1日1回、460万人の家族介護で利用されると、市場規模は年間3千億円規模になります。各家庭で月5千円程度の支出になりますが、市場セグメントの確立に成功すれば、今後高齢化の進む米国や中国などでも、日本企業の¬食の技術」による市場の掘り起しができるかもしれません。
 

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「住」については、リフォーム工事が、家族介護などの将来ニーズに合わせてカスタマイズされる傾向が強まると思われ、メーカーやホームセンターの顧客への提案力が問われることになりそうです。日本は住宅の買い替えが少ないので、リフォームにもこだわりが強く、人生後半の大きなお金の用途として需要は途切れないと思われます。水回りでは、日本は洋式トイレの普及が海外より遅く、和式トイレの販売数を上回ったのは77年でした。特許出願の歴史を見ると、欧州国籍の出願は98年の約200件をピークに漸減傾向、米国籍も97年の約120件をピークに70件前後で推移しています。他方、日本は00年の390件をピークに毎年100~200件の特許出願が継続しています。日本は後発であったことが奏功し、外来技術を吸収したうえ、独自の製品開発の途を歩みました。その結果、世界の特許出願件数の約四割を占め、節水技術、洗浄の効率性、トイレの起動および感知・作動の区分で他国の特許数を大きく上回っています。快適性やメンテナンス性など幅広い領域に及ぶ特許技術によって、総合デザイン力に優れているといえます。
 
水洗トイレの普及の早かった米国では衛生陶器の製造は、陶器を焼く丹念な手作業が必要で労働集約的なことから過去20年で、労働コストの安いメキシコなどに生産が移管されました。米国のリサーチ会社によれば、昨年米国で販売された衛生陶器の3/4が輸入品と推計されています。今や、世界のトイレ市場では、生産性の高い日本企業が米国やフィンランドの大手企業よりも高いシェアを握っており、日本メーカーの存在が際立っています。また、水資源が不足している米国では94年に、トイレの洗浄水量を従来の13リットルから、半分の6リットル以下にする法令が成立し、幾つかの州では4.8リットルの規制を行っているところもあります。この法令の施行当時に、高い評価を得たのが日本の節水型トイレでした。日本の最新の節水トイレは、3.8リットルで洗浄できる世界のトップランナーです。
 
水資源の確保は各国の重要な問題で、洗浄水量の基準強化は避けて通れないと思われます。例えば、中国では9リットル(都市部6リットル)規制となっていますが、水洗トイレの普及率が向上すると節水は重要な問題となります。中国の特許は00年から出願が増え、06年の100件前後がピークになっていますが、中水利用による洗浄水節約の技術分野に特許が集中しています。中水利用では、日本は生活排水、雨水の再利用、バイオトイレや水処理(オゾン処理など)など出願特許が多岐にわたっているのが特徴で、世界各地の風土にあわせて、トイレの付加価値化を提供することができそうです。
 
このようにニッチで成熟していると思われる市場でも、世帯構造や社会環境の変化で、イノベーションが必要となり、日本企業の活躍が期待できます。弊社のリサーチでは、将来の成長シナリオを、さまざまな統計データに基づき、組み立てます。普段の生活感にアンテナを立て、世の中に必要とされ続けることで、10年後も価値の高まる企業をリサーチすることを心がけています。
 
【ファンドアドバイザー 歌代 洋子】

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