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進化する福祉・生活支援用具

 
  今年2月に介護保険法が改正されたこともありますが、介護施設に居る親族に会いに行く度に私は施設で見かける歩行器や車いすなどを製造する福祉用具産業を調査したいと思っていました。
 福祉用具・生活支援用具の市場規模は工場出荷額ベースで約1.2兆円あり、年間出荷数の多いものは手動車いす48万台、シルバーカー39万台、歩行器25万台、補聴器52万個、介護ベッド26万台等があります。福祉用具産業全体では、入浴用品やポータブルトイレなどが小売店やネット販売経由で手軽に購入可能となり市場規模が拡大していますが、介護保険対象用具では制度変更によって据置型手すりがベッド用から玄関周りや訪問リハビリ用に需要が変わるなど、品目別に明暗を分けてきました。2005年の介護保険制度改正では介護ベッドの利用条件が厳格化し、流通在庫の調整がその後3年間も続いたこともありました。
 年々出荷数が増加している歩行器やシルバーカーですが、最近は高齢者の外出アシスト用に人感センサーや環境センサーで自動制御する電動歩行アシストカートの仕様が共通化されています。この外出アシストカートに通信機能、GPS機能、遠隔制御機能(貸出・返却・バッテリー残量把握)を付加し運営するシェアシステムの実証実験が4月から1年間行われています。

 バリアフリー法の推進で一日平均利用者数3000人の旅客施設のうち八割で段差解消、点字ブロック、バリアフリー・トイレの設置が済んでおり、道路の構造では車いすが転回できて歩行者と車いすがすれ違うことができる道幅1.5M以上、段差や勾配に対するバリアフリー基準を満たす特定道路の延伸事業が主要都市で進んでいます。高齢者が外出しやすい環境整備が着実に進んでいるのではないでしょうか。
 
 
将来の介護費用急増が課題
 
 他方、介護保険制度は施行から14年で認定者数が2.5倍に増加、介護費用も急増し第一号被保険者(65歳以上)の保険料は全国平均で月額2,911円から4,972円に上昇しました。介護保険の財源構成は5割が40歳以上の国民の保険料、残り5割が公費(国25%、都道府県12.5%、市町村12.5%)によって賄われます。厚生労働省は団塊世代が後期高齢期に入る2025年に、介護費用が現在の2倍の約20兆円になる見込みを公表しています。財源の5割が介護保険料によると仮定した場合、将来人口で推定した65歳以上の保険料は月額9,500円程度に上昇する試算になります。東京都福祉保健局が3月27日に発表した高齢者保健福祉計画によれば、2025年に東京都の認定者数は24万人増加し77万人と予想、保険給付費は27年度の8,363億円から1.2兆円に増加し、65歳以上の保険料は現在の2倍近い月額8,436円になる見込みです。OECD加盟国の中で介護保障システムに社会保険方式を採用している国は5か国あり、高齢者中心が日本と韓国、全国民対象がドイツ、オランダ、ルクセンブルグとなります。なかでも急速に高齢化が進む日本は、制度導入時の想定以上に財源確保が課題になりそうです。
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余暇・運動産業に様々なニーズ
 
 弊社金曜勉強会で「介護保険制度と福祉用具市場」のテーマで発表し、制度改正で需要がぶれず体力維持に役立つ普及品について話したところ、ご参加のお客様から「政府の費用見込みはあてにならない」「歩いて元気でいること」「ビジネスとしては通信やIT、体のデータをとれるウェアラブルデバイス」などのご意見が挙がりました。

 フィットネスが盛んな米国では、ボストンの病院でFitbitというリストバント式の活動量計を糖尿病患者に貸与し、患者のFitbitのフィードバックデータを解析しています。スマホに目標運動量やフィットネス施設案内を送信し、医師が個別患者の運動量を半年間モニターした結果、患者の運動量が増加し血糖値が改善、数例ではFDAの糖尿病薬の有効基準を上回る改善が認められました。運動プログラムのランニングコストは低いため、診療費用や投薬料節約で費用対効果があると報告されています。(出所:MITテクノロジーレビュー・ビジネスレポート モバイル・ヘルスケア特集2014年10/11月号)
 日本の後に介護保険制度を導入した韓国は予防を重視し、遠隔医療、余暇や定年農業などを成長戦略に挙げています。「余暇を屋外で健康に楽しむ」ための機能的なシューズやウェアはじめ高齢者の活動領域を安全に広げる製品の需要は今後も強まると思われ、関連産業への調査の深堀りが私の課題となりました。

 
【ファンドアドバイザー 歌代 洋子 】

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