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▲中学生の環境保護ワークショップで、
グループ発表を支援する現地スタッフ。

一日数ドルの暮らしが当たり前のベトナム南部に、
未来の公衆衛生のあり方を学びに
世界中から人々が集う村がある。
そこで活動するファンド仲間は言う。
お金には「生きた使い途がきっとある。」と。

 

 

 

 

「公衆衛生」と「金融」

 今年6月、福井県での「自立して堂々と生きて行こう」勉強会。スッと手を挙げる辻裏さんに参加者全員が耳を傾けた。
 「2001年にさわかみファンドを始めました。リーマンショック、怖くなかったですね。ITバブルの崩壊を経験していましたし、世界で必要とされる良い商品をつくる日本企業が潰れるはずがないと思っていましたから。それに、記念切手が貼られたレポートの頃からさわかみさんは「株価が下がったときこそ応援するぞ!」という内容のメッセージを多く発信していましたね(笑)。正直、莫大なお金が儲かるなんて期待していません。ただ、私は人の生活の根底を支える力が長期投資にはあるんじゃないかなって。お金を回して、人の役に立つ。今は、仲間たちと基金をつくってベトナムで活動しています。」
 辻裏さんは今、公衆衛生と金融を通じて、日本とベトナムの架け橋になっている。

「悔しかったんです。」

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▲環境保護研修では、ソーラー
クッキングでゆで卵を作ります。

 貧困の地で衛生環境教育を行い、村の自立を支える辻裏さん。活動の原点は、「大学で看護を学びたい。」その思いが叶わなかった「悔しさ」だ。
 高校3年時にお父様が急逝。経済的理由、そしてお母様の支えにと近くの短大を選択。しかし、胸の奥底はくすぶる思いが。「いつかはお金を貯めて、広い世界に。」
 大半の同級生が勉強に打ち込む一方、お金に敏感になったのもこの頃。短大卒業後は地元で看護師として働きながら、学ぶこと、そしてお金を貯めることを諦めなかった辻裏さん。都内の医大・看護学専攻3年に編入を果たす。授業終了後は夜勤の看護バイトで生活を賄う日が続いたある日、タイの医療分野で名高い国立マヒドン大学での公衆衛生プログラムに参加のチャンスがあることを知る。「連れてってください!」先生に直訴した辻裏さん。念願叶い、現地で目にした光景に心を奪われる。病院も薬局もない農村で、地域の健康を支えているのは地元ヘルスボランティアの女性たち。特別な資格は持たないが、不調を訴える村民への処置が大変よくトレーニングされている。
 「限られた設備、僅かな医薬品でもヘルスボランティアを育てる優れた訓練。そして、思いやりがあれば村民が互いに助け合うことができる。この村の健康づくりに、他の新興国も、そして日本も学ぶことがあるのではないか。」
 辻裏さんの国際協力への思いに火が点いた瞬間だ。高度・高額な医療技術や制度ありきではない、住民主体によるヘルスケアを世界に広めたいと。

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WINDYとの出会い

 その後、国内の病院・役場・大学等に勤務。衛生・看護のあり方を追求しながら2000年、メコン川南部の農村に赴く。これがきっかけとなり、一日数ドルの暮らしが恒常化したその村や地域で、住民や労働者、さらに海外からの学生と専門家が共同で農業や教育等を改善し、共に学び合う「メコンデルタ国際研修」がスタートした。

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WINDY 環境保護研修にヒント
を得て、親子で作成した勉強机。

辻裏さんは、今も現地の教育関係者と若者向けに生活用品の整理・手入れから豊かな生活を実現する環境衛生プログラム(WINDY)を行っている。WINDYにはこれまで15カ国400名を超える参加者が集い、アジア各国に活動の輪が広まっている。だからこそ「助成金にだけで頼っていてはいけない。」と辻裏さんたちは昨年「メコンデルタ基金」を起ち上げた。そして、今年3名の研修生が基金を通じて現地に派遣された。

 

貨幣と豊かさ
 「両親が銀行員で、子供の頃からお金自体には興味がありました。ただ、どうすれば貨幣が人々の生活を潤すのか、今も分かりません。ベトナムでは、農作業中にヘリコプターの音を聞くだけでうずくまってしまう人がいます。ベトナム戦争の恐怖を思い出すのです。そこで私に何ができるのか。一つ言えるのは、人には人の役に立てることで湧いてくる力があります。それは、お金も同じじゃないでしょうか。大切な人、大切なモノ、大切な何かを守るための『生きたお金の使い途』がきっとある。私たちの活動や基金も長期投資なんです。」
 最後に「夢を諦めなかったのですね?」と尋ねると辻裏さんは静かに言われた。「そう見えるかもしれません。でも、実際は山あり谷ありなんです。これまでも、これからも。私は運が良かった。学生時代、何を目指せばよいか本当は良く分からなかった。でも必死に学んだことで、素敵な方々との出会いに恵まれ、支えられ、15年以上に渡る活動につながっているのですから。」
 メコンデルタの風は一人の保健師、一人の長期投資家の生き様を吹き抜けていく。誰もが守りたい命と健康を、守ることができる未来に向かって。
直販部 佐藤 紘史

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WINDY 運営委員 辻裏 佳子様
国内外で大学・NPO活動を通じ、住民の健康や命を守る公衆衛生・地域組織のあり方
を、未来の看護師・保健師に伝えている。

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