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 最近新聞や雑誌でフィンテックというフレーズをよく目にするようになりました。IT技術を使った新たな金融サービスの総称で、金融を意味する「Finance(ファイナンス)」と、技術を意味する「Technology(テクノロジー)」を組み合わせた造語です。2015年9月に米国のコンサルティング会社マッキンゼーが発表したレポートによると、今後10年で、銀行の収益40%、利益60%が、フィンテックのスタートアップにより失われる可能性があるとのことです。
 実際に世界中で次々にベンチャー企業が誕生していて、投資額も破竹の勢いで伸びています。米国のコンサルティング会社アクセンチュアによると、2013年に40億ドルだったフィンテック領域へのベンチャー投資が、14年にはグローバルで122億ドル、日本円にして約1.5兆円に達したと推計されています。わずか1年のうちに3倍にまで規模が膨れ上がったことになります。
 
管理者不在の決済システムの登場
 
 フィンテック技術の中でも特に注目しているのがブロックチェーン・テクノロジーです。あまり聞きなれないワードかもしれませんが、実は仮想通貨『ビットコイン』を支える技術基盤として登場し、コンピュータサイエンスにおいても ブレイクスルーを引き起こしたと言われている技術です。ブロックチェーンは誰もが嘘をつく可能性のあるネットワーク上で、見知らぬ人たちと合意を形成しながらデータベースを構築し、メンテナンスをしていくという、誰も解決することができないと考えられていた難問を見事に解決しました。言い換えると、管理主体がいない環境下でシステムを安全かつ正常に稼働させることに成功したのです。安全かつ正常にというのは決済の二重支払を防止し、取引履歴の改ざんを不可能にしていることを意味しています。ちなみにブロックチェーンという名前は、取引記録を一つのブロックにまとめ、各ブロックを特殊な方法を使って鎖(チェーン)のように繋げていくことで実質的に改ざんを不可能にしている仕組みから由来しています。
 
あらゆる仲介役が取り除かれる
 
 ビットコインでは、ブロックチェーンを活用することにより、管理者が不在という状況下でも仮想通貨の取引を可能にしました。さらに、その取引は安全安心で、誰もが取引履歴を確認することができ、かつ誰もその正当性を疑うことができない仕組みを実現しています。これまで全ての取引は銀行や証券会社などの第三者機関を通して行わなければなりませんでしたが、ブロックチェーンを活用すれば第三者に頼らずに取引を正確に実行することができそうです。想像のつきやすい例としては、株式の取引が挙げられます。現在の仕組では、日本株を購入する場合、証券会社を通じて取引所で株式を買い、購入した株式は証券保管振替機構を通じて管理しています。しかし、ブロックチェーンを活用すれば、取引コストが発生する証券会社や管理コストが発生する保管振替機構が無くても運用することができそうです。金融業界以外に目を向けてみると、国民投票においても、投票結果をブロックチェーンで管理することで、不正ができないシステムを作ることができそうです。実際にウクライナ政府がブロックチェーン技術を活用した投票システムの開発に乗り出そうとしています。
 
金融業界以外に広がる可能性
 
 ブロックチェーンを活用すれば、仮想通貨や株だけに限らず、不動産や車でさえ売り手と買い手が直接取引可能になるかもしれません。またブロックチェーン上にあるデジタル情報は実質的に改ざんができないという性質を持っているため、何でも「本物」と認識することできます。そういった側面に注目すれば、デジタルコンテンツの知的財産保護にも活用されていくでしょう。さらに製造業を中心に各社が積極的に取り組んでいるIoT分野でも、IoTを構成する機器の所有権をブロックチェーンで管理する試みが新たに出てきています。
 さわかみファンドの調査方針はボトムアップリサーチを基本としていますが、調査企業が取り組んでいる事業のみを調査している訳ではありません。どの業界も最新のIT技術を取り入れながら競争力を高めていくことが求められる今の時代、ITは重要なテーマの1つです。そしてフィンテック革命によって生み出された革新的なIT技術は、製造業やセービス業への取組みにも大きな影響を与える可能性があると見ています。金融業界で注目されているフィンテックが、他の産業に影響を与える日が来るのも、そう遠くないのかもしれません。
 
【運用調査部長 岡田 知之】

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