【海外取材 レポート】自動車技術の源流の ドイツを視察

私たちは9月中旬にドイツに飛んで、シュツットガルトとフランクフルトのドイツを代表する2つの都市を訪ねました。シュツットガルトは自動車産業が盛んなドイツの中でもひときわ自動車産業が集積している地域で、日本でいえば愛知県、米国で言えばデトロイトのような所です。他方、フランクフルトは欧州中央銀行が本拠を構える国際金融の中心として知られていますが、実は2年に一度行われる国際モーターショーの開催地としても有名です。今回私たちは、シュツットガルトではメルセデス・ベンツ博物館とポルシェ博物館を視察して、ドイツの自動車メーカーが誇る歴史と技術の重みを実感する一方で、フランクフルトではお膝元であるドイツメーカー始め世界のメーカーが謳うこれからの自動車技術の方向性を取材しました。
シュツットガルト:ダイムラー、ポルシェ、ボッシュなど世界的な自動車関連企業が本社を構える

シュツットガルトはライン川の支流であるネッカー川沿いに発達した人口約60万人の工業都市で、ドイツ南西部に位置しています。完成車メーカーではダイムラーとポルシェ、部品メーカーではボッシュといった世界的な企業が本社を構える自動車産業の街です。

今日の自動車の歴史を生み出したダイムラー社

Mercedes-Benz Museum

ベンツの三輪車(手前)と
ダイムラーの四輪車(奥)

ダイムラー社は傘下に①高級車の「Mercedes-Benz」、②コンパクトカーの「smart」、③バス・トラックなど商用車の「Daimler」といったブランドを揃える巨大企業で、2016年の世界販売は300万台、売上高は1,533億ユーロです。ダイムラー社の起源は、Karl BenzとGottlieb Daimler の二人の技術者が各々に発明したガソリン動力車が偶然にも同じ年に特許を取得した1886年に遡ります。メルセデス・ベンツ博物館の見学は最上階から下っていくのですが、最上階にはK. Benzが発明した三輪自動車とG. Daimlerの手による四輪自動車が並び、まさに自動車の歴史を辿る見学コースの出発点となっています。自動車の生みの親となった二人はそれぞれの会社で自動車事業を営んでいましたが、第一次世界大戦後の経済混乱の中で両社は生き残りのための合併を模索し、1926年に今日のダイムラー社の起源となるダイムラー・ベンツ社が誕生しました。

スポーツカーメーカーとして確固たる地位を確立したポルシェ社

Porsche Museum

SUVの「Cayenne」はVWのスロバキア工場で姉妹車「VW Touareg」や「Audi Q7」とともに生産される

ポルシェ社は1931年創業のスポーツカーメーカーで、フォルクスワーゲン(VW)の名車である初代「Beetle」の生みの親であるポルシェ博士が設立しました。ポルシェ社はダイムラー社とは違ってニッチメーカーで、2016年の世界販売は24万台、売上高は223億ユーロです。商品は1963年に発売したスポーツカー「911」が世代交代を経ながら長年に渡って中核を占めていましたが、近年はSUVや5ドアハッチバックを加えて顧客層を広げることに成功しています。経営面では、VWで取締役会と監査役会で会長を長年務めたピエヒ氏がポルシェ博士の孫であるなどかねてからVWとの関係が深かったのですが、2012年以降はVWの100%子会社としてグループ内で確固たる地位を占めています。

 

フランクフルトモーターショー:「電動化」と「自動運転」が自動車各社の発表の定番メニュー
フランクフルトはライン川の支流であるマイン川の両岸沿いに位置する人口約70万人の都市で、欧州中央銀行はじめ金融機関や証券取引所が本拠を構える国際金融都市です。その一方で、自動車業界にとっては、世界最大規模の見本市会場とされるメッセ・フランクフルトで2年に一度開催される「フランクフルトモーターショー」が、ドイツメーカーを中心に今後の自動車技術の方向性を示す場として重要です。私たちは、9月16日~24日の一般公開日に先立って、12日~14日の報道関係者・アナリスト向け取材日に広大なショー会場を飛び回って調査をして参りました。
ドイツで開催される国際自動車ショーは、今から120年前の1897年に第1回がベルリンで開催され、フランクフルトを開催地としたのは1951年からです。戦争などによる中断はありましたが、今年2017年には第67回を数えました。欧州では、フランクフルトに、ジュネーブとパリのショーを加えて欧州三大モーターショーと称しています。ジュネーブショーは自国に自動車メーカーを持たないスイスで開催されることから、メーカー各社が等しい立場で臨むことができるという特色がある一方で、フランクフルトショーはドイツメーカーの、パリショーはフランスメーカーの、それぞれお膝元で開催されることから、自国メーカーが主役となっています。世界的に見ると、欧州の三大モーターショーに加えて、デトロイトと東京でのショーが五大モーターショーとされてきましたが、近年では北京や上海で開催される中国のモーターショーの隆盛と、デトロイトと東京の相対的な位置づけ低下という変化が生じています。
そのような中で、今年のフランクフルトショーは、世界39ヵ国から約1,000社が出展するとともに世界各国からの報道関係者やアナリストら11,400名が参加して開幕しました。2週間にわたる開催期間の総来場者数は81万に上るなど大変盛況で、世界の自動車技術をリードするドイツメーカーを中心に将来に向けてのメッセージを発信する技術の祭典の場というフランクフルトショーの位置づけに変わりは全くありませんでした。なかでも、「電動化」と「自動運転」の2つのテーマは各社の報道発表会では必ず言及される定番メニューになっていましたので、少し紙幅を割いて私たちの見方を簡単にお伝えしようと思います。

電動化は燃費改善と排気浄化の手段として従来以上に期待される
自動車のパワートレインに求められる要件は、大きく分けて2つあります。一つは燃料を効率よく使って走るという燃費改善であり、もう一つは有害な化学物資の排出を極小化することで、それらいずれも当局によって規制値が設けられて自動車各社はそれを達成することを求められています。
エンジンだけでなく電気モーターも組み合わせて使うハイブリッド車やモーターだけで走る電気自動車といった車両の電動化は、燃費改善と排気浄化の両方に有効な技術ですが、コストがかかるというのが難点です。一方、ディーゼルエンジン車は燃料と燃焼の特性からガソリンエンジン車よりも2~3割ほど燃費に優れるので、ディーゼル車が普及している欧州では自動車各社は、燃費規制に対応する上でディーゼル車を電動化ほどコストがかからない有効な方法と位置付けて注力していました。
ところが、そもそもディーゼル車にとって克服が難しかった実走行時のNOx排出低減という課題が、2015年のVWの排気試験不正をきっかけに改めて注目を浴びて、一部の国や都市ではかつての東京都のようにディーゼル車に否定的な動きが出てきました。自動車会社としては、燃費規制が待ったなしの一方で、燃費改善への貢献をディーゼル車に従来の様に期待することができなくなってしまった訳です。VW問題が露呈する以前から米国では有害廃棄物を減らすために電動化を促す規制が定められていたので、米国市場に参入するメーカーは電動化を避けては通れなかったのですが、VW問題はより広範な地域で電動化を促す結果となったのです。
電動車両には大きく言って4つの種類があります。①エンジンとモーターを巧みに使い分けながら効率的に走るハイブリッド車(HV)、②ハイブリッド車のバッテリーを大容量化するとともに外部から充電することも可能にしたプラグイン・ハイブリッド車(PHV)、③エンジンが無く大容量のバッテリーを充電した上でモーター駆動だけで走る電気自動車(EV)、④タンクに充填した水素と空気中の酸素の化学反応によって発電した電気でモーターを駆動して走る水素燃料電池車(FCV)が、その4種類に相当します。
①のHVは日本では全販売台数の1/4を占めるまでに普及していて、燃費や排気面での性能も優れています。でも、だからと言って規制値に対する達成状況をカウントする際に「掛目」が与えられて特別扱いされることはなく、普通の自動車と同様の扱いです。一方、HVに比べて技術あるいはコストの点で難易度が上がる②~④については、欧州・米国・中国での規制においては「掛目」が与えられて、1台の販売が1台以上にカウントされます。「掛目」は普及を促すための政策で、今後普及が進めば「掛目」は下げられることになるのでしょうが、当面は規制を達成する上での手っ取り早さから、欧米中の市場で各社は②PHVと③EVに注力することになるでしょう。なお、水素と酸素の化学反応で電気と水しか生み出さない④FCVは究極のエコカーと呼ばれますが、水素充填のインフラ整備を待たなければならないので普及にはもう少し時間を要すると考えられています。

自動運転の目的は快適で安全な車社会の実現
自動運転技術の開発には長い歴史がありますが、機械システムが人間にとって代わる自動運転が大きく注目されるようになったのは2013年のフランクフルトショーで、メルセデス・ベンツのテストカーがドイツ国内の一般路103kmをシステムによる自動運転で走行した映像を発表して以来のことです。自動車各社が本来目指している目的は、「運転者の疲労が少なく事故も少ない、より快適で安全な車社会の実現」にあると思いますが、ともすれば「○○年にLevel ○○の自動運転を実現する」というセンセーショナルな発表もあります。
私たちが現実的に想定する近未来の自動運転とは、2017年~2020年は高速道路のような自動車専用道路での車線変更の自動化で、ドライバー主体からシステム主体に向かうレベルアップが図られるというものです。システム主体とは言っても、システムから要請があれば人間が運転を交代するというレベルです。また、駐車場やイベント会場内の様なクローズドな状況では、ドライバー不要の自動駐車や移動サービスの提供が視野に入ってくるでしょう。そして、その先2020年以降になると、幹線道路や一般道といったもっと複雑な道路環境における自動運転を目指すことになります。運転の内容は、例えば「交差点の交通信号を認識した上で、右左折することなく通過する」といった平易なレベルから始まり、右左折を加えるなど段階的に高度化していくものと思います。
技術開発の目標はドライバーが不要のシステムによる完全自動運転であって良いと思いますし、高い目標の実現に向けての課題の抽出と解決は、より平易なレベルの自動運転の改善にも役立つことが沢山あるでしょう。但し、同時に私たちは自動運転技術の現実世界への適用は、ドライバー主導であれシステム主導であれ、快適で安全な車社会の実現という目的に向かって段階的に進んでいくべきものと考えています。

組入れ自動車メーカーの出展

Toyota C-HR Hy-Power Concept

Honda Urban EV Conceptと八郷社長

Suzuki Swift Sportと鈴木俊宏社長

「さわかみファンド」が組み入れている、トヨタ、ホンダ、スズキの自動車メーカー3社は、フランクフルトモーターショーでいずれも記者発表を行ってこれから世の中に出していく新車や技術を披露していましたので、写真とともにご紹介いたします。
トヨタの欧州での販売は好調で、その牽引車となっているのが2016年末に発売して好評を博しているコンパクトSUV「C-HR」です。トヨタはその「C-HR」のハイブリッドモデルをさらに高性能化したモデルの商品化を検討していて、今回はそのコンセプトモデルを出展していました。詳細は2018年初頭に公開される予定ですが、これまでハイブリッド車と言えば燃費はじめ環境性能重視でしたが、今後はエンジンやモーターの性能を引上げた高性能版も設定する方針を明らかにしました。リーズナブルなコストで環境性能と運動性能を高い次元でバランスさせることができれば、まさにハイブリッド車の業界リーダーとして面目躍如といったところだと思います。
ホンダは将来の量産EVモデルの技術とデザインの方向性を示すコンセプトモデルを世界初公開しました。全長が欧州で販売しているサブコンパクトカーの「Jazz」(日本名Fit)よりも100mm短く、都市内移動に最適な小ぶりなサイズです。用途を都市内移動に割り切ることで、車両とバッテリーのサイズをコンパクトにしてEVにつきものの航続距離の短さと充電時間の長さへの懸念を低減する狙いがあります。なお、ホンダは2030年に世界販売の2/3を電動車両にする計画を公表していて矢継ぎ早に電動車両を市場導入しています。2017年に米国で中型サイズのEVとPHVを導入した後、2018年には中国市場専用EV、2019年は欧州で今回のコンセプトに基づく量産EVを、それぞれ発売する計画です。
スズキと言うと日本とインドが主要市場というイメージが浮かぶかも知れませんが、実はEUでも年間20万台弱を販売して日本車の中ではトヨタ、日産、マツダに次ぐ第4位です。今回のモーターショーでは2018年春に発売予定の「Swift Sport」の第3世代を発表しました。「Swift Sport」には通常モデルの「Swift」よりも高性能な1.4Lの直噴ターボエンジンを搭載して動力性能を高めています。スズキの世界戦略車種である「Swift」は、欧州向けについては先代モデルまではハンガリーのマジャールスズキで生産していましたが、現在は日本から輸出しています。ハンガリーの工場を「Vitara」などのSUVのグローバル市場向け生産拠点とする戦略の下で世代交代を契機に日本での生産に切替えました。日本からの輸出となると為替変動の影響は免れませんが、持ち前のコスト競争力で円高局面が来ても乗り越えて行けるとの考えだと私たちは捉えています。

シニアアナリスト
吉田 達生

サッカーフィールド30面相当の広大なスペースで開催されるフランクフルトモーターショー