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 4月、金融業界に激震が走った。森金融庁長官が講演で、資産運用の世界において顧客の利益を顧みない現実があると釘を刺したのだ。具体的には、運用会社が系列元の販売会社のために手数料を稼ぎやすいファンドを組成していると指摘。個人の安定的な資産形成に資するファンドが非常に少ないと批判し、後述するように、大半が積立NISA不適合とした。
 講演は、売買タイミングを見極められるプロが少ない点、その割にコストが高い点、顧客に適切な情報提供ができていない点、ガバナンスやリスク管理態勢の充実が不可欠な点、さらにはサラリーマン運用者が多く覚悟が足りない点などにも触れ、日本の資産運用業界を皆で発展させようと結んだ。中でも「資産形成に役立つ商品・サービスを提供し顧客に成功体験を与え続けることが金融機関の評価を高め、中長期的には経済や市場の発展にも繋がる」との視点は疑う余地もなく、今回の講演が掛け声で終わらないことを願う。

 

 さて来年から始まる積立NISAでは、「投資の大原則」(日本経済新聞社)という本の中で、個人が投資で成功するための秘訣として書いてある“再投資(複利効果)”、“定額積立投資”、“資産分散”、“低コストのインデックスファンドの選択”を参考に対象ファンドの条件が金融庁より示された。諸条件の記述は省略するが、結果はアクティブ型で5本、インデックス型で約50本が適合となったようだ。

 

 “再投資(複利効果)”と“定期積立投資”は財産形成において納得できる手法だ。しかし、“資産分散”には資産毎の価格変動を相殺しリスクを抑える効果があるも、それは殖やすのではなく“減らさない”考え方だろう。時間分散は有効なれど、機械的な分散投資には疑問が残る。そして最後の、インデックスファンドを選択する理由の“低コスト”は疑問以上に違和感を覚える。

 

 第一に、米国のように超長期で平均株価が伸びればよいが、日本は1990年以降上昇のないうねりを繰り返してきただけである。コストの高低の問題ではなく、平均株価と連動するインデックスファンドでは財産形成は難しい。
 第二に、ファンドの成績(基準価額の推移)はコスト差引後で示される。新規ファンドにおいて信託報酬は参考となるが、運用期間10年以上のファンドであれば成績と平均株価を比べれば十分。コスト比較せずとも実績が証明してくれる。
 第三に、平均株価に連動させるだけなら運用能力は不要、ただの販売合戦に陥る。そうなれば、顧客満足度を上げるのは運用以外のサービスであり、低コストといっても限界は近いだろう。
 第四に、インデックスファンドの多くでは指数に指定される企業をすべて組み入れるため、社会的疑義のある企業でも自動的に投資することとなる。本当にそれでよいのだろうか?

 

 森長官は講演でこんなことも述べている。曰く、「欧米の運用者たちは24時間365日絶えず市場動向を注視し、自分の資産も賭け、心身擦り切れるくらいストレスを溜めつつも成功すれば巨額の報酬を得られる」と。実力主義ということが本意だろうが、現代では使用しづらいワードを並べるところに金融庁の本気度が感じられる。

 

代表取締役社長 澤上 龍

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