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“つみたてNISA”制度開始から半年が経った。公表された3月末の口座数が約51万とのことだから、6月末時点では70万口座に達した程度だろうか。その公表結果に金融庁は、投資未経験だった比較的若い世代に広がりつつある点を自己評価するも、強い姿勢で臨んだわりには期待外れという本音も隠れていそうだ。

2014年から始まった“一般NISA”は、制度開始早々に税務署がパンクするほどの反応があり、現状で1,000万口座を超える。それに比べ、つみたてNISAが劣るのは我が国の投資環境が未熟なことが理由に挙げられよう。儲からない制度に金融機関が乗り気でないこと、既存の投資家には年間40万円の投資額は小さく、そもそも積立投資に興味を示さない。成熟国家である我が国には長期の積立方式での財産形成は必須である。しかし良好と言えない投資イメージが邪魔をし、国民に制度の本質が訴求できないのだ。無論、訴求するほどの魅力が制度にないことも事実である。

つみたてNISAでは、ファンドの提供に厳しいハードルを設けた点は間違いなくプラスだ。一方でそれが低コストのインデックスファンド中心となった点はマイナスだろう。20年という期間も中途半端である。よーいドンで始め20年後に期待しましょう、では困るのだ。20歳の若者が40歳で資産運用を止めるわけにはいかず、また20年後が株価暴落のど真ん中だったらどうするのか。そもそも投資期間は誰かが決めるものではない。恒久的な制度の中で投資家自身が入用に応じ引き出していくものだ。つみたてNISAは収入のある若い世代向けの制度と解釈できるが、自分年金として誰にでも訪れる老後の備えのためならば確定拠出年金(DC)で十分だろう。制度導入時の掛け声と覚悟はよかったものの、金融機関・個人投資家共に世代交代が行われるなど構造的な変化がない限り、つみたてNISAは業界全体の中で小粒な存在にとどまるに違いない。

一方でDCはどういう状況か。企業型DCの導入実績は3万社を超え、一般NISAには及ばずとも働く世代約700万人が利用中だ。以前の確定給付型と比べ、企業にとって運用リスクがなく経費削減のメリットもあるDCは今後ますます実績を積み上げるだろう。ただし従業員側は、理解が進まないまま制度に従っているという感覚だ。意味のない元本確保型商品に6割近い資金が据え置かれているが証左である。つみたてNISA導入の一年前に対象が拡大された“iDeCo”は現時点で100万加入口座があるかどうかだ。メリットの大きいDC制度もまだ成長過程だ。

物事を動かすには膨大なエネルギーがいる。しかし転がりだした岩は案外軽い力でも転がり続ける。初動を与えるには逆に押すのも手だ。戻りたいという力を利用するのだ。もしかしたら市場の暴落という手痛いダメージが本格的な資産運用への目覚めを誘引するのかもしれない。我が国の資産運用文化は確実に芽生えつつある。つみたてNISAも、真に国民のための制度へと改変させながらじっくりと取り組んでいくことを願う。

【代表取締役社長 澤上 龍】

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