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株価は“利益×人気”で計算できるが、人気ほど当てにならないものはない。だから投資は利益(価値)を見なければならない…前回そうまとめた。今回も引き続き、筆者が勉強会で用いる例え話から始めたい。

勉強会の参加者に130円や150円、または70円と値付けされた1本のペットボトルの水。薬局で買えば50円台、ディズニーランドでは200円するかもしれない1本の水。価格は状況で変化するが、しかし価値はある程度定まったものだ。無論、個人の興味や需要にて価値すらも変わり得るが、例えばペットボトルの水が100円といって違和感を持つ人は少ない。皆が認識する一般的な共通の価値観だ。
人気に投資をしないのであれば100円という価値に投資をすべきか。少し違う。水そのものの付加要素が増えたりインフレにならない限り、基本的に価値は大きく変わらない。では100円という価値を軸に振子現象を起こす価格変動に投資すべきか…それはギャンブルと呼ぶ。では何に投資をするのか。
「100円の水をつくっている企業の年間生産量を1万本とします。さて、この企業の売上はいくらですか?」と質問すると「100万円」と即答が返ってくる。「しかし世界を見渡すと水が足りない地域もあります。その企業は、そういった地域にも自慢の水を届けるべく努力を始めます。水源を確保し工場を建設、世界中に搬送する供給網の整備、現地従業員の雇用と教育…そのような努力を経て10年後に1億本の水を供給していたら、その企業の売上はいくらですか? 今と比べ何倍ですか?」「100億円で…1万倍」
投資とは未来への可能性を応援することである。言い換えれば、企業が事業リスクを取るなら、投資家も投資リスクを取って描く未来を共に歩む行為だ。世界中の人が安全でおいしい水を手にする喜びという広義のリターン、そしてその過程を共に歩んだという投資リターンが未来から戻ってくる。投資とは未来づくりへの参加であり、実現を楽しみにじっくりと待つ行為なのだ。
前々回、長期投資は何年かという問いに答えなかったが、上記を踏まえれば“実現するまで”が答えとなろう。早ければ3年、長期化すれば40年ともなり得る。しかし誰かがリスクを取らなければ世界に水は行き渡らない。仮に投資家が自らの利益のみを追求し、「世界に水を届ける資金があるなら配当を出せ」と圧力をかけたら、世界中の人は水を飲めずその企業の成長も失われる。株価決定メカニズムに従えば、目先の利益(価値)が下がると株価も下がることになる。事実、株価はそう動いている。それでは、利益を圧迫する努力要素を阻止するのが短期視点での投資家の合理的判断となってしまう。また目先の株価が下がっただけで「やれ損切りだ、ロスカットだ」と言ったら、それこそ株価下落による買収リスクが高まり、結果的に企業の夢は潰えるのだ。仮にその企業が倒産したら、投資家自身が将来、水にありつけない世の中が来るかもしれない。投資は“利益×人気”ではなく、利益(価値)がいずれ上がるような掛け算…つまり“利益×応援”とすべきなのだ。それは必然的に長期となろう。

例え話が極端なため現実味が少なく感じるだろうが、大なり小なり同じような事象が世界で起こっている。また逆に、小なりでも未来へ共に歩む長期投資が文化となれば、その集合体をもって世界は変わる。投資とはそれほどの力を秘めているのだ。次回、まとめをもって本シリーズを終了する。

【2019.9.4記】 代表取締役社長 澤上 龍

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