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 その後、三重県名張市にある医療法人の事業・経営を立て直すことになるのですね。

 そんな時に、事業・経営再生の話をいただきました。医療法人の概要書を見て、ようやく自分が考えていたやり方を実践できると心が躍ったことを昨日のことのように覚えています。急いでお金を工面し、岩手県から三重県へ移り住みました。数億円の債務を背負い、まさに背水の陣でした。2014年5月に譲り受けた医療法人が運営している病床を住居(集合住宅)へ、病床の医師であった自分自身を往診医へ、病床に勤務する看護師の所属を訪問看護事業所へと転換し、それまでずっと温め続けていた構想を具現化しました。
この時、往診医として100名近い患者の看取りに立ち会いました。患者の死を前にして、医師としてできることは限られています。私は臨床経験に乏しく医師としての自信はありませんでした。自分が受け持つ患者が亡くなれば、流石にこみ上げる感情はあるし、同時に説明のつかない無力感もありました。そこで死亡診断をした後に、寝台車をお見送りするところまで看護師と一緒にしようと決めました。ほぼ全員の方をお見送りしたと思います。私は、経営者としても臨床医としても経験不足でしたが、そういった真摯な姿に患者も職員も信頼を寄せてくれていたのかもしれません。自ら医師として、主体的にモデル事業に関わることで運営に関する知見が蓄積されるだけではなく、現場を牽引することで職員や患者の心を掴むことができました。医師免許を持っていて良かったと、その頃初めて思いました。そして、施設の展開が進むうちに、外部の医師やケアマネジャー、薬剤師などが参画する、現在の“医心館”の事業スキームができあがっていきました。

 柴原さんは研究者から転身、社会活動家としての取組、また現場の医師としての活動を通じて様々な立場にいる方々との関わりがありました。これが人脈形成につながったことはもちろん、柴原さんの社会、もっと身近には地域との接し方に大きく影響したのですね。社会課題を解決するために実業家になったということではなく、閃いた社会実験を通して社会や地域に貢献したいという思いが熟成され、結果として柴原さんはイノーベーターになられた、というのが良く分かりました。さて、医心館ですが、順調に展開できている背景はどこにあるのでしょうか?

 今、医心館では、月に300~350名の方がお亡くなりになっています。施設内看取り率は98%を超えています。急変したらすぐに救急転送といった無責任な対応もしません。これは誇れる数字です。何ができて、何ができないかということをしっかりと説明したうえで、最期まで責任をもって終末期ケアができているのは、医心館の創設時より培われてきた、そこに係る医療従事者として、同時にひとりの人間として関わるスタンスが活きているからと思います。ここで亡くなってもいいと思わなければ、ご家族は最期の最後に病院への救急搬送を希望するでしょう。医心館の考え方、態度や行動の一つひとつが地域の医療機関や医療従事者からの信頼に繋がっていると思います。また、新しい施設を開設する際には入念に調査します。医療・ケアのニーズはどうか、このニーズに責任をもって応ずることができる質量を備えた採用はできるか、在宅医療の基盤はあるか、往診医は終末期への関わりについてどのような考え方を有しているかなどを十分に調べます。

 貴社で採用が順調に進んでいる理由は何でしょうか? また、新たな展開先でも安定して入居者の方が増えている要因はどこにあるのでしょうか?

 業界全体では看護師も介護職員も完全に不足しているなか、当社は創業以来、いずれでも派遣職員はおりません。また、強固な看護体制を維持するために質の高い看護師を必要としており、結果として内定者は4人に1人程度の厳選採用を貫いています。これを可能としている理由は2つ。1つ目が、結婚、出産、子育てといったライフイベントに応じて働き方を変えざるを得ない働き盛りの看護師が、病院の次の就業先として自らの看護観を活かしたケアができる医心館を選んでいる点です。2つ目が、当社が“ホスピス”という新たな業態をつくりだしたパイオニアであるとして看護師からの注目を集めている点です。当社では「医心館を地域に開かれた医療プラットフォームにする」というコンセプトを掲げており、主治医は全員外部、ケアマネジャーも原則継続としています。これにより、提供するケアサービスの透明性と公明性が担保され、地域医療からの信頼の獲得や向上に繋がりますし、これが口コミで医療従事者へ着実に広がることで採用が進むことになります。また同時に新たな入居者の獲得に繋がるのです。

地域医療を支えるプラットフォームとしての医心館

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