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 欧州最大級の技術見本市「HANNOVER MESSE 2026(ハノーバーメッセ)」を視察した。今回最も強く印象に残ったのは、欧州製造業におけるAI活用が「実証段階」を完全に脱し、「実装段階」へと明確に移行していた点である。


①「未来の技術」から「経営インフラ」への転換

過去数年間はデジタルツインや生成AIの概念実証が中心であり、「AIで何ができるか」を模索する展示が目立っていた。しかし今回は、SiemensやSAPをはじめとする主要企業が、以下のような投資対効果を具体的に示す提案で埋め尽くされていた。
●工場稼働率の改善と省人化
●AI駆動による高度な予知保全・品質管理
●エネルギー効率の最適化

 

②未来のスニーカー工場

省人化で特に興味深かったのは、スニーカー工場のデモンストレーションであった。顧客が測定機に足を乗せると、足の形状や特徴が瞬時にデータ化される。その情報を起点に、エージェンティックAIが最適なソール形状や仕様を設計する。設計データはそのまま製造工程へ送られ、ロボットがスニーカーを組み立てる。そして完成した商品は、自動搬送システムによって顧客のもとへ届けられる。いわば、「測定→設計→製造→配送」までが一つのデータでつながった工場である。

 

これは単なる工場の省人化ではない。「大量生産」と「個別最適化」を両立させる新しいものづくりの姿である。これまでオーダーメイドは高価で時間がかかるものだった。しかしAIと自動化技術が進展すれば、一人ひとりに最適化された商品を、従来の大量生産に近いコストとスピードで提供できる可能性がある。

 

③ドイツがAIで付加価値を生み出せる「真の理由」

なぜ、ドイツを筆頭とする欧州はこれほど強固にAIを社会実装できるのか。その理由は「AIの技術自体が優れているから」だけではない。「高コスト環境下で生き残るため、AIで高付加価値化を進めるしかない」という、極めて強い危機感があるからだ。

中国製造業の台頭、地政学リスクに伴うサプライチェーン再編、深刻な人手不足、エネルギー価格の高騰――従来の成功モデルが通用しないという切迫感が、企業の変革を猛烈に後押ししている。さらにドイツには、長年培ってきた「インダストリー4.0」によるデジタル化の土台がある。彼らにとってAIは突如現れた飛び道具ではなく、積み上げてきた現場の知見とデータを覚醒させるための「地続きの武器」なのだ。

 

④日本の製造業への示唆:課題を「変革のテコ」に変える

このドイツの現状は、日本の製造業にとっても大いなる希望の光となる。日本企業は高い技術力と「現場の三現主義(現場・現物・現実)」を持ちながらも、それをサプライチェーン全体の最適化や収益化に結びつける点で苦戦してきた。現在、日本もまた欧州と同様に、深刻な人手不足やエネルギーコスト、地政学的リスクに直面している。

しかし、この苦境こそが変革の契機である。AIを活用し、設備・人材・エネルギー・サプライチェーンといった限られた経営資源の配分を最適化できれば、国内生産の競争力を劇的に高められるはずだ。これからの時代を牽引するのは、AIを使いこなし、技術を「高付加価値な製品・サービス」へと昇華できる企業に他ならない。

 

【運用調査部 トレーダー兼アナリスト 新野 栄一】

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