
ホルムズ海峡の封鎖が直撃する一般市民への影響
イラン戦争が2月28日(日本時間)に勃発し、世界の石油消費量の20% が通過するホルムズ海峡は翌週封鎖されました。高市首相の動きは早く、日本では3月11日にガソリン価格をリットルあたり170円 に値上げの上限を設けることを決定しました。ガソリン価格が敏感な話題である理由は、ガソリン消費が非弾力的であり、価格弾力性はゼロに近いからです。車で通勤する必要がある一般市民にとって、政府の支援は大歓迎でした。
日本と同様に、フランスも石油生産国ではありません
フランス語には、「フランスには石油はないが、良いアイデアはある」という有名な言葉があります。文の前半は真実ですが、後半は必ずしも証明されているわけではありません。車で患者の自宅を訪問する必要がある医療助手の場合、1日50km(都市部平均)では、ガソリン代が月に約150ユーロ (約28,000円)になります。150ユーロは最低賃金1,450ユーロ の10%に相当するため、まともな生活を送ることが困難になりました。

リメンバー「黄色いベスト運動」
フランスの革命的な精神は、1789年に民主主義を獲得し、1793年に国王をギロチンにかけた歴史が物語るように、国民に深く根付いています。現代の最高指導者は直接選出された大統領ですが、国王と同様に、国民の福祉に対する責任を負っています。2018年には、折からの原油価格高騰に加え、段階的に増税(炭素税)を導入しようとしたことで、7週間にわたる全国的な抗議活動「黄色いベスト運動」が引き起こされました。当時の価格上昇は、新しい税金、つまり政府の責任によるものであり、人々は深い不公平感を覚え、値上げを拒否しました。
しかし今回は、ガソリン価格が過去最高に達したにもかかわらず、抗議活動はありませんでした。今回のホルムズ海峡の封鎖はアメリカの責任であり、その封鎖により、原油が欧州の精製所に輸送できないことが価格上昇の理由であることを国民は十分に理解し、今回はガソリン価格の上昇を受け入れる態度でした。
炎上回避から国民的英雄へ
今回、トタル・エナジーズ(フランスの石油メジャー)のCEO、パトリック・プヤンヌ氏は、民間企業であるにもかかわらず、即座にガソリン価格の上限を設けることを決定しました。3月以降、トタル・エナジーズは利益を追わず、時には赤字でガソリンを販売してきました。もし同社がイラン戦争によるガソリン価格の上昇から利益を得ながら一般市民を助けなかったら、人々は不公平を感じたでしょう。トタル・エナジーズの経営判断は、風評リスクの懸念をフランス国民の間で強い評判向上に変えました。短期的な利益の犠牲は、ブランド価値の向上という形で、より大きなリターンをもたらしたと言えます。

真の企業の存在価値を見る
株式市場は3月から6月にかけて過去最高を更新し続けましたが、それはガソリン価格の高騰のように、実体経済の中で生活者に様々な不公平感を生んでいます。株高の恩恵などまるで別世界のフランスの医療助手にとって、通勤のガソリン代だけで給料の10%を消費されてしまえば、他の消費を我慢する連鎖を生む可能性もありました。
地道な企業努力は、すぐには株式市場での評価に結びつかないかもしれませんが、今回のトタル・エナジーズの姿勢のように、社会に対して真の意味での企業価値向上を優先できる経営判断は、長期投資家にとって大きな示唆があります。
【運用調査部 アナリスト シャルル サルヴァン】







