ドイツ出張報告レポート

出典:Messe München

6月中旬にドイツのミュンヘンで開催されたAutomatica2018(国際オートメーション・メカトロニクス専門見本市)を視察してきました。この見本市は2年に一度行われるイベントで、前回2016年の開催時には世界47か国から833社が出展、来場者は100か国から約43,000人と、産業用ロボット分野では世界最大規模を誇ります。今月は、視察した最高投資責任者の草刈、アナリストの坂本、直販部の江藤より報告いたします。

 


■運用調査部が海外視察の現場で見ていたもの

 直販部の江藤です。今回、当社の企業調査を深く理解するために、運用調査部の海外視察に同行しました。個人的には学生時代にロボットを作っていたため、大変興味深い見本市でした。

ブースのまわり方
Automaticaは東京ドーム1.4倍の広さに大量のロボットと部品のブースがひしめく見本市です。1ブースずつ丁寧に見るのはとても無理な広さですので、私たちは予めピックアップしておいた企業のブースを確認した後に全体のブースを回りました。今回の視察は業界の動向を確認することが目的でしたが、草刈と坂本は“ちょっとした違和感”や“何か気になる”という感覚をとても大事にして行動しているように見えました。後で分かったのですが、2人の頭の中にはこれまでの企業調査から既に自分の中で考えている将来のシナリオがいくつもあり、そのシナリオに対して異なる情報があると、企業ブースに立ち寄ってヒアリングをしていたようでした。仮説を立て検証をすることを何度も繰り返していたため、私たちは新しい気づきがある度にロボットメーカーと部品メーカーの間を何度も往復しました。

保護材をキッカケに…
例えば2人の目に留まったものの1つに、ロボットアームを覆う保護材(カバー)があります。そのカバーは柔らかい素材で出来ており、ロボットとの間に風船を挟むような構造で、そこにセンサーが組み込まれています。人間が触れたり何かが当たったりするとセンサーが反応しロボットが止まる仕組みです。見本市では、ロボットを止める方法は、 “触れると止まる方式(接触型)”と“ロボットに一定距離近づくと止まる方式(非接触型)”の2つに大きく分かれており、前者を採用しているロボットでその保護材を使用しているのを何度も見かけました。「特許も取っているそうだし、儲かりそうなビジネス。この企業の製品は接触型の標準となりえるか?」という疑問が2人に生まれたようです。再度様々なロボットメーカーのブースに戻り、その製品を使っているかヒアリングをしていきました。多くの企業がそれを使用している中、ファナック社はNO。そのカバーではロボットの指先などの工具の取り付け部位を覆うことができない箇所が出来てしまいますが、同社の協働ロボットは保護材だけでなく、ワーク(作業対象物)に触れても止まる仕様となっており、その仕組みも自社で開発していることが分かりました。不具合が生じたときに他社製品が含まれていると早急に原因究明できないためとのことでした。見た目では気がつかない細かな点ですが、ロボットの誤作動で死亡事故が発生している現状を考えると、特に人間の近くで働く協働型ロボットにおいてはとても大切なポイントだと思います。
以上のやりとりから、保護材だけでは完全ではないことや、そういったことを想定して止る仕組みをすべて自社開発している同社の技術力を改めて理解できました。

時間が経つほどに信頼されるファンドに
先ほどの保護材を作る企業は未上場企業でした。そのため「投資できないのでヒアリングしても仕方ないのでは?」と私は感じてしまったのですが、運用調査部は業界を理解するためにあらゆる角度から情報を収集していることを知りました。なぜそこまでして業界の理解が大切なのか? ふと、当社の職場精神を思いだしました。「ラッキーな結果は所詮ラッキーでしかない。再現性ある結果を求めるなら、結果に至る過程を磨き込むべし。」
お客さまの財産作りをお手伝いするためには、1発当てればいいという運用ではなく、再現性が不可欠です。業界をより深く理解しようとする行為は、投資判断の再現性を高めるために行われていることに気がつきました。そして長期投資だからこそ、じっくりと業界や企業と向き合うことができ、様々な将来のシナリオを深く考え結果を蓄積できます。机上の計算だけで予測しているのではなく、このように地道な作業があるからこそ時間が経つほどに信頼されるファンドが出来るのだと再確認し、彼らの背中がいつもより頼もしく見えました。

直販部 江藤 香織

 

 


■協働ロボットという潮流

今回の視察の目的は2点ありました。1点目は、人とロボットの協働について海外での進展具合を確認すること。2点目は運用者、アナリストと共に直販部員が同行することで企業調査における物事の捉え方、視点、思考のプロセスを理解してもらい、直販部員がより正確にファンドを理解し伝えられるようになることです。

まず1点目について。運用報告会などで私が、人口動態を大きな切り口として“予測される社会課題を解決するための技術の一つ”にロボットをあげています。これは自動化が進んでいる産業用ロボットはもちろん、人をアシストするロボット等の必要性が高まると考えているからです。高齢化が進めば労働人口の比率が減少します。しかし高齢者の消費が無くなるわけではありませんので生産量の維持は必要です。ですから相対的に働く人が減るのであれば、生産性を向上しなければ量を賄えなくなります。また、高齢者も働くという選択肢もあります。しかし、いくら元気なシニアが増えたとはいえ若い人と同じ動きは難しいです。そこでロボット等の技術を用いたスーツや機構を活かし、人をアシストするという使われ方が大きなトレンドになると考えています。

近年、欧州ではこれらの考え方の一つである協働ロボット(以下Cobot)という分野が拡大してきました。国内の展示会では、日本の産業用ロボット企業の規模、能力、性能が高く営業網も強固なことから、欧州メーカーがそれほど目立ちませんし出展しない企業も多数あります。ですから、これらの進捗を確認するには現地に赴くことが一番。展示会では様々な質問に営業も技術者もIR 以上に応えてくれるので、様々な発見がありました。特に、これまで日本の展示会では見たことのない欧州企業の製品や、日本では見えなかったCobotの勢力図を確認できたことは大きな収穫でした。

最終的な結論としては、Cobotは想像するほどたやすいものではなく、実際に広がるにはまだ相当時間がかかるであろうということが分かりました。費用対効果、用途、ロボットで出来る範囲という観点から導入にはいくつも越えなければならないハードルがあります。一方で、この分野が拡大する可能性はとても大きいとも感じます。産業用ロボット企業だけでなく、ハンド、搬送、ボールねじ、リニアガイド、空圧と部品企業などもそれに向けた取り組みをしており、Cobotが世界的な流れであることが分かりました。導入が進みだせば新たな産業となるでしょう。これらの分野における日本企業の競争力は群を抜いていると再確認できましたから、新たな時代でも世界を席巻してもらいたいものです。

2点目につきましては、今回同行した江藤のセミナーで直接ご確認していただければと思います。彼女のセミナーがお近くで行われる際には是非お越しいただければと思います。

取締役最高投資責任者
草刈 貴弘

 

 


■Universal Robotsにみる新しいビジネスモデル

各社がCobotを出展するなか、とりわけ存在感を示していたのがUniversal Robots社(以下、UR社)です。同社はUR3、UR5、UR10の3つ(厳密には各々の改良品を含めた6種)のCobotを生産しています。各々の名称にある数字は可搬重量を表しており、3kg、5kg、10kgの対象物を持つことができます。同社のロボットはこのたった3つしかありません。しかしながらエンドエフェクタやアクセサリ、ソフトウェアを用いることで、小さな対象物の設置・接着、ネジ止め、工具の操作、はんだ付け、塗装、ピック・アンド・プレイス、研磨、射出成形、梱包及びパレタイジング、品質検査、組み立て、マシンランディングなどに使われています。実際にAutomaticaにおいても様々な作業をデモンストレーションしていました。URの開発環境はオープンにされており、50社以上が存在する開発パートナーが作業の多様性を生んでいます。すでに80種以上の周辺機器が認定されており、今年には100種以上に増える見込みであり、顧客はこれらから用途や環境に合わせて自由自在にカスタマイズすることができます。

筆者は今回のAutomatica訪問を機に新しいビジネスモデルの確立に期待を持ちました。UR社はロボットの開発・生産を自社で行うのに対して、販売は各国の契約代理店に依存しています。UR社製ロボットはティーチングが容易であり、実際に箱を空けてから1時間以内に簡単な作業ができるようです。そのため自社でシステムインテグレータをたくさん教育する必要がなく、販売網の広がりは想定以上に早く進むかもしれません。UR社製ロボットのユーザー数の増加は、パートナー企業の増加及び彼らの開発インセンティブの向上につながり、最終的には顧客の便益がさらに高まるといったネットワークの外部性による好循環がもうすでに生まれつつあるのではないかと考えさせられました。

紙面文字数の関係上半ば無理やり押し込みましたが、これらは事前準備による仮説設定及び展示会での情報収集、それらに基づいた事後的な再検証で得られた結論です。将来的にこの仮説が当てはまるかどうかは誰にも分かりません。しかしながら不確実性にこそ収益機会があり、このようなプロセスを経て仮説を持ち続けることが重要であると考えます。

 

シニアアナリスト 坂本 琢磨