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この度のコロナ禍は、医療逼迫とロックダウンという直接の影響だけでなく、二次的影響としてリモートワークの実施、工場稼働の制限、半導体不足、鋼材費や物流費の高騰という試練を社会に与えました。加えて世界は一気に脱炭素に動いており、さらに中国共産党の経済政策も変わりつつあります。
世界は激動の度合いを強めていますが、全ての企業が一様に影響を受けたわけではありません。むしろ変化をうまく捉えた企業、危機を変革の好機とした企業、何も変わらなかった企業とで経営力の差が業績と株価に明確に表れました。今回は勝つ組織と負ける組織の特徴を、歴史的な観点も踏まえてお伝えします。

 

勝った企業、負けた企業

紙面の制約で一部しか紹介できませんが、コロナ禍で堅調な業績を維持した企業には、換気の技術を持つダイキン、CT画像診断装置やPCR検査装置の技術を持つ浜松ホトニクスなどが挙がります。またブリヂストンは2020年度に赤字になりましたが、危機を契機に工場の再編と事業モデルの変革を加速しています。これらの企業は自社が強みを活かせるチャンスを経営陣が見出しており、チャンスから利益を掴むダントツの技術力と強力な営業力とを持っています。
一方で何も変わらなかった企業は、消費の回復や物流・資源価格の上昇で直近の業績にプラス・マイナスの影響がそれぞれ出たものの、いずれも激動する世界で勝つための具体的な戦略がありません。これらの企業の経営陣に共通するのは他社と横並びの一般論に加えて、「このような状況で弊社がどのような事業をできるのか、取締役会でしっかりと議論しています」という、いわゆるやってる感の演出です。勝てる公算が見えないため、これらの企業の将来の業績は外部環境次第であると株式市場は評価しています。

 

負ける組織の共通点

歴史を振り返れば勝つ組織にはそれぞれ固有の要因がありますが、負ける組織には共通点があります。例えば成功体験への埋没、情報不感症、戦略の欠如、内輪の論理、味方戦力の過信です。
古代から中世への過渡期において大陸の唐王朝が戦乱の時代を迎えたとき、エリート官僚の菅原道真が遣唐使を廃止しました。その結果、朝廷は混乱期の大陸から何も学ばず、地方豪族の台頭と反乱という大陸と同じ状況を招き、やがて武士階級に実質的な支配権を奪われます。
江戸時代でも、元の目的はカトリック派国家の侵略を防ぐことだった鎖国政策が200年以上も踏襲され続けたために、徳川幕府はヨーロッパで起きた宗教改革から重商主義、産業革命、大英帝国の覇道に至る中世から近代へのメガトレンドを過小評価し、列強の侵略にろくな備えもしないまま黒船の来航を迎えました。
負ける組織の特徴を最も示した例が、満州事変から敗戦までの日本政府、陸海軍の失策の数々でしょう。国際情勢の激動に不感症だったエリートたちが、褒めるところの何一つない愚行を重ねた結果、300万人以上の犠牲と現代まで続く日本の国際的地位の低下を招きました。
 

世界のメガトレンドに目を向けよ

世界は激動期に入りました。しかし、残念ながら日本は取り残されていくでしょう。アジア最強の製造業拠点という優位性を失い、産業構造転換が遅れ、社会保障負担が増加し、国民所得が減少して変化に対応する余力がないからです。地政学リスク、アジア・アフリカ経済圏の拡大、北極海とインド洋航路の開発、情報通信技術、フィンテック、ドローン、気候変動対応といったメガトレンドで主役となるのは海外の企業でしょう。
投資の観点でも目先のバブルに目を奪われていると、メガトレンドが生み出す機会を見落とします。アメリカではGAFAM※と呼ばれる巨大IT企業や、SaaSというソフトウェアの定額利用モデルで稼ぐ企業がコロナ禍でも業績を伸ばしました。経営者たちは高い株価を利用した高額報酬で世界中から優秀な人材を引き寄せ、新興企業を買収して自社の事業をさらに強化しています。このような勝つ企業の集積がアメリカの国力増強につながっており、日本企業全体の活力とは大変な差が開いています。バブルがはじけても勝つ企業は勝ち続けるでしょうし、倒産しても事業ノウハウや技術の蓄積、優秀な人材まで一緒に消失するわけではありません。
私たちに必要なことは、先進国日本という驕りを捨て去り、世界に目を向けて小さな変化を見出す鵜の目、高い視点を持つ鷹の目でチャンスを探すことです。世界のメガトレンドの理解に努め、日本企業か海外企業かを問わず勝つ企業を見出す能力こそが、負ける組織のリストに私たちが加わらないために不可欠な資質です。

※GAFAM~
グーグルの持ち株会社アルファベット、アマゾン・ドット・コム、旧フェイスブックのメタ、アップル、マイクロソフトの総称。

 

【アナリスト 加地 健太郎】

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