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※写真はイメージ画像です。

未来医療の新興技術

2020年1月の公開アナリスト勉強会で発表したように、3Dプリンターの医療機器への応用が期待されている。その応用分野は①手術支援②歯科医療③身体拡張④体組織造形などである。日本では、整形外科領域での手術支援が保険適用され、患部のCT画像から骨格モデルを3Dプリンターで作成し、手術のシミュレーションをするなど活用されている。他にも骨や関節部分に使用する人工骨材を3Dプリンターで製造する研究も進んでいる。歯科では3Dスキャナーと3Dプリンターをシステム化し、歯形のスキャンデータから樹脂製モデルを造形しクラウン(被せもの)等の製作に実用化するなど、デジタル化で歯科技工士の作業効率を改善している。身体拡張の分野では3Dデータ処理技術で触感、通気性、重量を自由にできる造形で、より快適な義肢装具を開発。これまで義肢装具士が手作業で行ってきた製造プロセスを、デジタル技術で支援するサービスの社会実装が始まっている。(注1)

米国では3Dプリンターの医療応用を新興技術と位置づけている。米国食品医薬品局(FDA)が2017年に医療用3Dプリンターのガイドラインを公表し、領域専門センターが機器製造の承認プロセスを各々監理している。医療機器・放射線保健センターが頭蓋骨プレート、歯科技工具、脊椎ジョイントや人工内耳の開発を、生物製品評価研究センターが再生医療のバイオ3Dプリンティング等を、医薬品評価研究センターが医薬品の3Dプリンター製剤医薬を管理しており、FDAによって2015年7月にそのうちの1品目が承認された。米国の先行企業の一社、3Dシステムズ社は2000年から3Dプリンターの医療応用を始め、デンタル、臨床、医療機器、外科手術プランニング(シミュレーション)やバイオプリンティングでの活用が有力と考えている。

 

日本の再生医療実用化

体組織造形分野のバイオプリンティングはプリンターに設計図をデジタル入力し、培養細胞を含む3次元構造物を作製する技術で、これまでにない複雑な内部構造や局所的に異なる細胞配置のある構造体を造ることができる。実用化では、仏ロレアル社が培養細胞を3次元で製作した人工皮膚を化粧品の毒性試験に応用し、動物実験を補完する人工臓器の製作を可能にした。日本では安部政権の成長戦略である、再生医療のスピーディな実用化計画が策定され、2015年から日本医療研究開発機構の再生医療実用化研究事業(注2)が、治療法の無い疾患への応用が期待される臨床研究の公募を始め、いくつかは承認申請が視野に入る段階に進んでいる。アカデミアと企業の協力により、3Dプリンター造形中に細胞の生存を損なわない酵素反応による細胞含有ゲルや、培養細胞そのままで立体構造を作製するバイオプリンティングの開発が進み、移植医療や再生医療の将来性を高める技術として着目されている。人工骨材や培養細胞を含むゲル誘導体を3次元成形する研究の科学的実現は5年後が目標となっている。さわかみ投信では、一つでも治療法として承認されることを待ち、その関連産業に期待して調査を進めている。

 

戦地やパンデミック発生時に期待する医療用3Dプリンターの役割

3Dプリンター製造の実用化では、コンピュータによる製品設計、プリントヘッドの動作プログラム、プロセスコントロールによる造形サイクル、後処理、パッケージング、最終製品の検査の各段階で品質基準に適合する必要がある。covid-19によるロックダウンでは、グローバル企業はバッチ生産における原材料サプライチェーンの混乱で供給不足に陥り、個人やローカル組織が3Dプリンターでフェイスシールド、マスクホルダーや人工呼吸器部品を製作し、機器が不足する現場に提供した。3Dプリンターのメリットは、戦地やパンデミック発生でおきる医薬品不足に対し、病院・製薬複合施設のオンデマンド生産に速やかに対応できることである。これを契機に2021年12月にFDAは3Dプリンター医療機器のディスカッションペーパー(注3)を発表。臨床での3Dプリンターの信頼性、生産管理と監督責任者の明確化、製造・品質管理、副作用報告や是正措置の監督、臨床での複雑な治療に活かす技術トレーニングに加え、ソフトウェアインターフェイスと画像セグメンテーションを監理し、どのような環境下でも安全性を満たす規制を提言している。レギュラトリーサイエンスにも注視し、3Dプリンターの将来性に期待したい。

【シニアアナリスト 歌代 洋子】

 

注1 3Dでデータ処理技術を応用し、より快適な義肢装具の開発が可能に 慶応義塾大学SFC研究所、2019年12月2日
注2 再生・細胞医療、遺伝子治療研究開発2021パンフレット(日本医療研究開発機構)
注3 Discussion Paper:3D Printing Medical devices at the Point of Care
https://www.fda.gov/medical-devices/3d-printing-medical-devices/3d-printing-medical-devices-point-care-discussion-paper

 

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