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先月、タクシーにダイナミックプライシングが導入されるとの報道を見た。「ああ、やっとか」と思うと同時に、ふと海外のお土産屋が脳裏を過った。

定価制の是非

かつて日本は世界に先駆けて定価制を取り入れたと学んだことがある。三井高利の越後屋(現・三越)は呉服市場への参入が後発だったこともあり、知恵を絞って後発の不利を補った。それが定価制で、庶民が安心して店内で買い物ができるようにとの配慮だったはずだ。綺麗な反物に魅せられ、いざ価格を聞いてビックリ、がなくなったわけだ。越後屋の生んだ定価制の意義は決して小さくない。しかし世界はぐるっと回って価格のあり方が変わろうとしている。

冒頭に記述した海外のお土産屋の話は、アジアの市場(いちば)で買い物をした際の筆者の体験談だ。客である筆者と売り手である店側が交渉し、お互い納得する価格に到達したら笑顔で握手する。仮にその直後に別の客が更に安価で購入したとしても恨みっこなし。なぜなら既に納得した価格で取引を終えているではないか。

価格とは買い手(需要)と売り手(供給)との間で決まるもので、人によって違って然るべき。例えば「3つ買うから少しおまけして」とか「いつも買っていただいてるので安くしますよ」といった要素だってある。卸での取引では交渉は日常茶飯事だ。しかし定価制はそういった状況を無視し、モノ・サービスそのものの価値を提示したもの。もちろん定価があるからといって割引ができないわけではない。故に、定価は買い手に安心感を与えつつも、それが“始値”と考えて良いのだろう。コンビニなどでは既に“終値”だが。

 

価格は需給で決まるのが基本

ダイナミックプライシングなどカッコいい言葉を用いずとも、我々は価格が需給で決まることを知っている。身近な例として株価などがまさにそうだが、ガソリン価格、野菜など背後に市況があるものは概ね価格が変動する。供給者も一定の利益を確保せねばならず、下代が上がれば、最終消費者が支払う上代に反映されるのは仕方ない。

他方で、旅費やスポーツ観戦チケットのような繁忙・閑散期を見越した価格設定を行う方法もある。それがダイナミックプライシングだ。企業側は通年にわたる収入を確保でき、閑散期だからといって社員のレイオフに悩まず安定した運営を提供できる。利用者もまた閑散期を選べば安くサービスを受けられるなど利点ありだ。この繁忙・閑散期が道路渋滞のように裁定されていけば価格は固定化されるわけだが(資源高などコストプッシュインフレなどを考慮しなければ)、人の営みに波がある限り裁定は起こらないだろう。むしろこれまでの通年定価に無理があったと言える。

 

さて本題のタクシー。ダイナミックプライシングを導入すると、どうやら50%幅での値上げ・値下げができるとのこと。ただし全体を通してタクシー会社が儲けすぎたらダメで、定期的に状況を国交省に報告しなければならないらしい。価格は買い手と売り手の納得で決まる。乗車距離などで料金が決まってしまうタクシーの特性もあろうが、国が関与して価格を抑え込むのはどうも違和感を覚える。過剰な消費者保護によって日本自体が成長しなくなるのは避けたいところ。企業が儲け過ぎたら消費者は勝手に離れていくのだから、せっかくなら完全自由市場とし、買い手・売り手それぞれが生き抜くための知恵を高め合っていくべきではないか。

【2023.5.17記】代表取締役社長 澤上 龍

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