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いったい次は何が起こるのであろうか?
2020年は世界に新型コロナウイルスが広がり、我々は感染者数と死者数のニュースに恐怖を覚え、日々の生活ではマスクと換気とアルコール消毒で自己防衛を行い、人との接触を避ける生活を強いられた。正に日常の風景が一変する変化が起きたのである。
一方で、金融市場では各国の中央銀行による大規模な金融緩和に支えられ、日経平均株価やダウ・ジョーンズ工業株30種平均は歴史的な高値となっている。日々の生活に根差し、地に足のついた投資を行う我々にとっては違和感があるのは当然だ。今の金融市場は各国の金融政策や財政政策の影響を強く受け、企業活動や働く人を含めた本来の価値や実態とは関係ない要素に振りまわされているのである。無論、行き過ぎた緩和は歪みを生み、市場の原理で修正されるはずである。本稿は修正が起きた場合の心の準備として記した。

 

変動は大きく、頻度は高く

Fig1の日経平均株価の変化率を見てもらいたい。これはヒストリカルボラティリティといい、日経平均株価の変動の大きさを視覚化したものである。
青い線は30日間の変化率の標準偏差をプロット(描画)したもので、株価が大きく変動すれば値(線)が大きくなる。1日の大きな変動ではノイズも含まれるため、30日間とした。オレンジの線は青のボラティリティの5年間の移動平均をプロットしており、長期で見るとどのように変化しているかを観察するためである。期間は1970年から直近までの約50年間のデータを使ったので、過去から現在までどのような変動を繰り返してきたのかを見ていきたい。
このグラフのポイントは、青い線が上に行くほど株価の変動が大きいことを表している。例えばボラティリティが40を超えて上に飛び出ているところは特徴的であり、市場が暴落に見舞われていると考えてよい。目を引くところでは、1987年のブラックマンデーや1990年代のバブル崩壊過程、2008年のリーマンショックが見て取れる。2020年も同様であった。
オレンジ色の移動平均線を見ると、1970年~1990年はボラティリティが低く、現在と比較すると長期間に亘って安定した市場環境であったと言える。しかし、1990年以降はボラティリティが高まったことが見て取れる。ちょうどその境目となる1989年12月29日に日経平均が史上最高値を付けて以降は、ボラティリティが一段高くなっていることから、バブル崩壊過程で市場の構造が変わったのではないかと考えられる。何の変化が起きていたのかについては、日本市場の要因では、持ち合い解消に伴う浮動株の増加や、外国人投資家の保有率の上昇に伴う頻繁な売買などが考えられるが、本稿の目的とは逸れるためその点の考察は別の機会にさせていただきたい。

 

恐怖であわてないために

さて、このグラフを持ち出したのは、ボラティリティが40を超える大きな変動は1990年以降確実に増加している点に注目して欲しいからである。今は安定した1970、80年代ではなく、10年に4度は急落が起きている。長期投資は10年以上に亘るので必ず急落に出会うだろうことをしっかり頭に入れておいていただきたい。なぜなら、繰り返し起きることを知っておくことは非常に大事だからだ。
心理学者のポール・スロヴィック教授によると、恐怖を高める要因は破滅因子と未知因子の影響が大きいという。人では制御できない破壊的なものほどリスクを感じ、そしてよく分からないものほどリスクを感じるのである。パンデミックの初期段階はこの適例となっていた。ウイルスは目に見えないし、有効な感染対策もなく治療方法もなかった。スロヴィックの言う破壊因子も未知因子も十分に人々の恐怖心に大きく影響を与えたのである。市場の急落にもこれが当てはまると考える。投資先企業をよく知り、市場の変動を理解していれば、少なくとも未知因子は小さくなり恐怖は抑えられ、冷静な投資ができる。
しかし、頭では理解していたとしてもなかなかそのようには行動できないことも分かっている。なぜなら人は感情のせいで、恐怖に直面した時に合理的にふるまうことができないからだ。そもそも脳の構造は、合理的に考える役割を担う前頭前野と喜怒哀楽の情動を担う扁桃体とで活用する領域が違うのである。これは、投資においては非常に厄介な面がある。例えば急落時に扁桃体が活性化し、合理的な判断ではなく感情で行動してしまうきらいがある。
昨年のコロナショックの急落時には、さわかみファンドも大きく揺さぶられた。この2~3年の間に投資を始めたファンド仲間は、想定外の含み損を目の当たりにし、扁桃体が活性化したのではないだろうか。今後も急落は起こり得ることは覚悟して欲しいのだが、その際にもし恐怖や不安に襲われた場合はご縁の窓口まで連絡していただきたい。合理的判断のお手伝いを全力でする所存である。

【トレーダー 新野 栄一】

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